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「ただ、結界が張られているから私たち半獣は山を登れない。宝が一人で向かうしかないわ。そして……行ったなら、もうここへは戻らない覚悟が必要よ。生まれた場所で、根を張って生きていくの」
樹香の言いたいことは、宝にもわかった。
試しに覗いてみるとか、軽い気持ちでなせることではないということだろう。
三日三晩悩み、考え抜いて――それでも、親の顔を見てみたいという、体の奥底から突き上げるような衝動は抑えられなかった。
決意を樹香に告げると、悲し気な目をしながらも宝の意思を尊重してくれた。
そして、帰った先の村で恥ずかしい思いをしないようにと、上等な旅の服を用意してくれた。
そのことが伝わると、すぐに集落のみんなが入れ替わり立ち替わりやってきては、涙ながらに頭を撫でてくれたり抱きしめてくれたり、自分にとって大事な宝物を宝にくれたりした。
「宝。私からは、これを……」
樹香は宝に手の平に載るほどの小袋を手渡した。複雑で繊細な刺繍がされている。貴重な絹糸を惜しげもなく使って、樹香が手ずから拵えてくれたものだ。
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