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「これは、守り袋よ。きっと宝を守ってくれる。集落を囲んでいる香木を削ったものを詰めてあるの。……ふふ、ちょっと、私の名前にもあやかっているわ」
「樹香……ありがとう」
「使うことがないことを祈っているわ。……そして、あなたに二度と会えないことを祈っている。山の上の村で、幸せに暮らせるように。あまりにも幸せで、私たちのことなんか忘れてしまうように」
宝は守り袋を握りしめ、樹香に抱きついた。柔らかい体毛に顔を埋めると、暖かな日差しの匂いがした。
慣れ親しんだ集落を離れ、宝は小さな体で山を登った。
ただ、子供とはいえ、不思議な力のおかげか、一日中歩き続けても疲れを感じなかったし、自分が行くべき目的地は、まるで光でも発しているかのように方向がわかった。
集落を出て二日目の夕方だった。
森の中を歩き続けていた宝の目の前が、急に開けた。
小さな小屋のようなものが沢山並んでいる。……そして、強烈な懐かしい匂い。
ここだ。
私の親がいるのは……私が生まれたのは、ここだ。
直感であり、確信だった。
胸が痛いくらいに激しく鳴っている。
――私を産んだ、お母さんが……いる。
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