どうぞ、もう会えませんように

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 騒ぎを聞きつけた男が二人やってきて、有無を言わさず宝を村の中央にある小屋へと連れてきた。そこは集会場として使われているらしく、男たちは村を束ねる立場の者らしい。  集会場の冷たい床に座らされ、まるで罪人のように取り調べをされる。宝は泣き出しそうになるのを必死で堪えつつ、どうにか答えていた。  聞き取りを終えると、中年の男二人が顔を見合わせてから宝を見下ろした。 「……すると、お前の話を信じるのなら、お前は十二年前に崖から落ちた、蘇向(ソムカ)なのだな……」  それが、私の本当の名前……?  宝にも訊きたいことは沢山あった。  だが、目の前の威圧的な態度の大人に、恐れをなして声が出せない。  でも、と腰にさがった守り袋を握りしめる。  それが、宝に勇気を与えてくれる。  何のためにここへ来たのか。樹香たちが、どんな思いで送り出してくれたのか。
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