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一週間で「最近どうしたの」と四回も言われた。いつもお店で顔を合わせるまゆみさんたちなんて、すぐにあたしの変化に気付いたらしい。
自分でも、変わったと思う。
どうせブサイクだし、ちょっとなんか塗ったところで誤魔化せるわけないと一度もやったことのなかった化粧を「女なんて服とメイクで変わるんだよ、頑張んなきゃ」と正義くんに強く言われて始めて、服も黒やグレーの地味なものばっかり着てたのを、夏らしいピンクやオレンジをたくさん買って、着た。
伸ばしかけの中途半端な長さだった髪は思いきってばっさり切って、明るい茶色に染めた。
よく恋をすると女の子は変わる、きれいになると言うけれど、それは自分を持ってない女の子が男の子に流されてるだけなんだと思ってた。
それは半分当たってて、半分違う。あたしは自分の意思で正義くんに流されて、流されることによって新しい自分を手に入れようとしていた。
お盆休みは昼間っから店は大繁盛で、富樫さんも女の子たちもみんなてんてこまいだ。会社は休みだけど何の予定もない、実家に帰りたくもない、だったら風俗でも、という男の人たちが世の中にはゴマンといるから。
プレイタイムを終えて休憩室に戻ってきてまもなく、休む暇もなく富樫さんから出勤を告げられる。
「やよいちゃん、三番ボックスね」
「ハイ」
おしぼりを用意しながら、これだけ忙しいと富樫さんに店を辞めたいと切り出すのは今日は無理かなぁ、と思う。
正義くんは何も言わないけれど店を辞めてほしいと思ってるのは確実だし、あたしもそうしたい。
今はもう整形したいなんて思わないから、風俗嬢を続ける理由もなくなった。生活費を稼ぐため、普通のバイトをすれば十分だ。
とはいえ、風俗嬢でもどんなに嫌な仕事でも、仕事は仕事だ。しかも意に反して人気が出てしまっていれば、辞めようとしても辞めづらい。
富樫さんに「あと一ヶ月頑張って、あとちょっと」なんて引き止められないかと心配だった。
三番ボックスで待っていたのは三十半ばほどの、ちょい悪オヤジって感じの人だった。
染めた髪も派手な柄のTシャツもじゃらじゃらしたゴツいアクセサリーも、若者ぶってる。
抱き寄せられるとお風呂上がりのような香水の香りがした。ごくあっさりした、不快感を催さないプレイだった。
この前のねちっこいおじさんの時みたいに、泣き出したくなんかならない。そのことに逆にへこんでしまう。
あたしはもうすっかり身も心も風俗嬢で、本当に気持ち悪い人は別としてある程度ルックスのいい人なら、たとえ見ず知らずの相手であっても、胸やあそこをまさぐられることに今さら嫌悪感を覚えないのだ。
本当は正義くん以外の男の人に抱かれたくなんかないし、正義くん以外の男の人の身体は嫌っ、汚いって、目を背けなきゃいけないのに。そうなりたいのに。
たぶんあたしは二度と、普通の女の子には戻れない。
「やよいちゃんは、彼氏いるの?」
終わった後、タバコをふかしながらその人は聞いてきた。以前なら自分が惨めになるだけの質問にも、今ならちょっとこそばゆい気持ちで答えることが出来る。
「はい、一応」
「へー。そりゃそうだ、可愛いもんね。大学の人?」
「いえ……その、バイト先の」
「バイト先って。えっ。まさかこの店!? 店長!?」
「店長じゃなくて。宣伝のティッシュ配ってる男の子です」
どういう子? いつから付き合ってるの? と矢継ぎ早に質問を浴びせられ、気がつけばだいぶ詳しく正義くんの話をしてしまっていた。
お客さんに店員同士の恋愛をバラすなんて、非常識だったろうか。まぁいっか、どうせもうすぐ辞めるんだし。
ふぅん、と灰皿に灰を落としながらちょい悪オヤジが言った。
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