この扉をぬける時、あなたはきっと1人じゃない。

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「なあ、5号、俺とミナトが来る前 両隣は空き部屋だったのか?」 「……うん、空き部屋だったよ。たま〜に人が連れてこられて……いなくなるの、繰り返しなの いなくなったらしばらく静かで……そんな静けさに飽き飽きする頃、また、誰かが連れてこられる ごめんだけどミナトと圭介が連れてこられた何人目かとかは……覚えてない ただこんなに話しやすいの、話してくれたの二人がはじめてなのは確かだよ こんなに思い出あったら私、忘れないもん そりゃまあ、すこしぼんやりしてるタイプけど……」 「なるほど? 連れてこられてもそのうちいなくなるなら うちらもそう……てことよね やっぱり殺処分されてるのかな……」 「ええ!私そんなの嫌だよ」 「……俺たちにどんだけ余裕があるんだ……? なあ、5号、前の人とか今俺たちが何人目か、とかはいいから 人が入ってから、空き部屋になるまでの間に何日たったか、わかるか? ……時計もカレンダーもないけど 時間を把握できる目安は一つあるだろ? 一日に一回の、食事」 「あ……人が入ってから、でるのに 10……まってね、食事だけが楽しみだからちゃんと壁に刻んでるの 14回、食事したよ」 「……なるほど俺等が殺処分されるのまで 14日、2週間 ……か」 「うちはもう5回食事した」 「……俺は12回……っは、やべえ俺ぎりぎりだったな」 「……そ、そそそんな大切なこと 言わなくてごめん圭介……」 「いいって、お前のせいじゃねぇだろ 閉じ込められてる分お前だって被害者だぜ 不安なのは……お前だけイレギュラーてことだ 俺とミナトは、多分同じだ 普通の子供で、連れてこられて 最初にレーザーかなんかあてられてその後放置。 だけどお前は……」 「うん……そのレーザーとやらがなんなのか分からないや」 「そう、なにもかも条件がちがう レーザーはあてられてないし、当然のように2週間以上 物心ついたときからずっとここにいて…… 放置され、生かされ続けている。 ……お前の正体がわからない 俺たちには……そして、お前自身にも」 「……うん」 申し訳ない気分だった。 私はあれだけの時間をなにして過ごしてきたのだろう 施設や自分のことを解き明かすこともなく ただ、外の世界を夢見て本を読み、たまに連れてこられた子達と話し、その子達がいなくなり一人になれば壁に落書きしたり、大声で歌を歌ったり。 呑気で、愚かな存在。 「……だけど、お前が何者だったとしても 俺はお前と外に出たい。いいよな?この施設とかロボットに思い入れがあって絶対出たくないなんてこと、ないよな? 信じてほしい 俺を……世界を。 外は今よりもずっと素晴らしいものだから……」 「……もちろん、私圭介がいてくれるならどこにでも……」 「……じゃ、約束として……これもっといてくれ」 チャリ、と手渡しされたなにか すごい なんだろ、これ龍?が剣に巻き付いている どうやって作ってるんだろう? それを見て、ミナトは嫌そうに顔をしかめた 「いちゃいちゃしてるから黙ってみてたら、なにそのプレゼント、センスなさすぎ なんで買うのそういう観光地でどこにでもある系のキーホルダー」 「しかたねーだろ!修学旅行中に買えるものでセンスあるものがあるわけねぇじゃん!」 ミナトと圭介はぎゃーぎゃーと言い合いする はじめて触れたそれは、とても金ピカできれいに見えて。 「……ありがとう、私一生大事にする」 「外に出たら違うの買ってやるから!」 赤面している圭介は なんだか面白かった。 *** とにかく、圭介には時間がない。 どうせ死ぬなら、と配膳にきたロボットをむりやり押さえつけたり殴ってみたりしたものの、まあ無傷で仕事を終えて去ってしまった。 反応すら示さない 攻撃したら殺してくる、とかではないようだ。 これで13回目。 私は、本置き場で一冊の資料本をみつけ 圭介に声をかけた。 「ここの施設にいるロボットの設計図が描かれてた!」 誰かのために目的をもって本を探す ということがなかったから、見つけるのははじめてだ。 圭介は、よくやった!と叫びそれを開いた。 「……やっぱなあ、爆破とか薬剤とか使わない限り とにかく素手じゃどうしようもねぇて感じだな ……そんでエネルギー消費が激しいから、清掃や配膳 または緊急時に駆けつける時以外はずっと充電されてるらしい この施設には全部で5体いる……と」 「緊急時……圭介が扉開けてセンサー異常起こしたときに来たね」 考え込んでいたミナトが、口を開く。 「……停電おこせばなんとか脱出できるんじゃないかな? 人の気配はないし…… 役目がある時以外はずっと充電されてるっていうなら……」 私たちは顔を見合わせて頷く もう、それしかないような気がした。 きっと、明日14回目の食事が終わったあとに圭介は消されてしまう いままでもそうだった 同じ子が15回目の食事をむかえることはなかった。 「ブレーカーを探そう、それぞれの部屋になにかそういうものがないか……」 「……なあ、俺の部屋の天井……」 圭介の部屋、天井は私やミナトのと一部つくりが違い、なにかネジのようなものでとめられている扉があった。 「ドライバーなんて都合よくねぇよな……」 「なにかとりあえず溝にハマればいいんだよ そのクソみたいなキーホルダーは?」 ミナトが見下したように言う。 ううん、剣の部分が太すぎてネジにははまらないみたいだ。 「役に立たないわねー圭介」 「キーホルダーにむかって圭介って言うな!」 「もっとほかに……紙とか無理だし……かたくて…… ね、十円玉とかもってない?」 うちは倉庫にいたから、なにもないの とミナト。 私もお金など持ったことも使用してなにかを得たこともない。 圭介はポケットをさぐり あ、と声を出す 「十円玉とティッシュと砂入ってた」 「汚いわね、ポケットの中掃除しなさいよ日頃」 ミナトは嫌そうな顔をする 「うるせぇな、おかげで助かった、だろ?」 コインをネジのみぞにあて なんとかひねると、4箇所同じことをやり、扉はあいた。 薄暗い細い通路 「……俺が行く。 ミナトはロボットこないか見張っててくれ 5号は多分、ブレーカー見てもわからないだろ」 「ゔっ……ごめん」 外に出たら色々学ばなくては 「大丈夫、ずっと外で生活してていい歳こいてブレーカーよくわからない人結構いるから」 「そうなの?」 ミナトは優しい。すぐフォローを入れてくれる。 二人きり 沈黙が舞い降りた。 「あ、あのこんなときに緊張感なくてごめんね ミナトのワンピース、きれいだね 似合ってるってずっと思ってたよ け、圭介はここでても一緒にいてくれるっていうんだけど ミナトはどう? 一緒……だよね」 私が不安げにみると、ミナトは優しく笑ってくれた。 「……当たり前じゃない、ずっと、一緒よ」 途端、明かりという明かりが、消えた。 それは圭介が成功した証だった。 なにもみえなくて、自分たちも脱出が困難ではあるが キーホルダーがわずかに光っている。 「役に立ったろ?キーホルダー 蓄光タイプなんだよ」 圭介はそれを目安になんとか戻ってきた。 私たち3人そろい、はぐれないように手を繋いで進み出す 「人間だったらとっ捕まるけどよ ロボットで動きもしないなら、暗くてみづらいけど なんとか壁をつたって出れるはずだ」 扉のセンサーもまったく反応しない。 「電気なくても動くタイプのやつあったらどうしようかと思ったけど 全部なんの機能もしてねぇみたいだな ありがたいぜ」 無限に思えた廊下は案外すぐ行き止まりになり いくつか扉をあけた。 おそらく……この部屋だけ 窓があるらしい、外の光に照らされたロボットの充電部屋。 4体が静かに下を向いていた。 ……自然の光ってきれいだなあ これがもうすぐ、いつでも見れるようになるのか。 「ひやひやするな、はやくいこう」 そういう圭介に、ミナトは暗い顔でうつむく 「ねぇ、この施設全部で5体いるんだよね……?」 「……!」 その時だ 充電部屋をぬけ、その先廊下の明かりがつきはじめたのだ。 もうすぐ出口のような扉があるが ピー、ガチャン、と音がする 「……電気が復活したんだ!!どうしよう」 このまま進んでもロックされた外への扉は開かない ロボットは充電が終わり次第、先に私達が本来居た部屋の方を見に行くだろうが 施設内全体を見回し、ここにやってくるのも時間の問題だ。 「多分……残りのもう一体が こういう緊急時用に、ブレーカーを上げたり 電力の調整をしてるんだとおもう」 ミナトは震える声でそう言った。 「二人はここにいて!うちはもう一回 ブレーカー落としてくる そして電気が消え次第、外に出て先に逃げて!」 「でもそんなことしたらミナト……!!」 「いいの、うちは圭介よりまだ時間がある ロボットも、こちらを捕まえはするけど時が来るまでなにもしてこない なによりこの施設に根深い5号、あなたが先に逃げる方が先!うちのことはあとから助けてくれればいい 外で助けを呼んできて!」 「わかった!頼む……5号、いくぞ」 「まって、まってよミナト!また会えるんだよね?!」 圭介に腕を引っ張られる、ミナトは引き返していった。 なんて勇敢な女の子なんだろう せめて私にできることは、託された通りに、扉の向こうへ行くことしか。 本当は3人で、この扉をぬけたかったのに。 暗闇の中、身を潜めて 息を殺し…… しばらくして、また電気が消えた ミナトが成功した証だ。 扉のロックが、外れた音がした。
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