この扉をぬける時、あなたはきっと1人じゃない。

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コンクリの壁   狭い部屋、一日に一回だけ ロボットが清掃をしてくれ、食事も持ってきてくれる。 体内時計とやらは意外と正確で、私は今日はなんだろうと足の指をこすりあわせ、楽しみにしていた。 和式トイレと、簡易的なシャワーなら備え付けられている。最低限、生き続けることは可能な空間だ。 意外と、菌とかにも触れないので風邪をひくこともない 今日もピンピンに、普通に元気だ、だから苦しくもなんともない。時間だけが無限にある中で私は、妄想と独り言を繰り返す。 私はー……外の世界を知らない 隣部屋、連れてこられたらしい外の世界を知っている子はわんわん泣いて 今日も泣き叫び、狂ったように暴れ 出たい出たいと叫んでいるが…… そもそも外の世界を知らない私はここが当たり前でそんな悲観的な気持ちにはならなかった。 けれど外に興味がないというわけではない むしろ興味津々で それが生きる理由になっている。 「5号、5号」 きた。私の最近の話し相手、外の世界を教えてくれる男の子ー…… 高坂圭介 彼はちょっと前に、ここに連れてこられて…… 他の子とちがって決して泣かなかった なんとしても出てやるという確固たる意志が瞳に燃えているだけだった。 私はそれを、素直に格好いいとおもうし、無事脱出してほしいと思う。 「ネタバレしてやるよ、今日のごはんは ミルクスープにパンだ」 「ええーネタバレやめてよ今日の楽しみ終わっちゃったよ」 「ふふん、あのな、それだけが楽しみってのがおかしいのさ 外に出ればいつでも好きなタイミングで食事ができる。粉っぽいミルクスープなんて不味くて飲めたもんじゃないくらい美味しいもので溢れてる なにより、すげー暇だろ? そういう時な、ゲームしたりテレビみたりパソコンで色々記事あさったり旅行にいったり スポーツしたり 人生はもっと豊かなんだ、こんな灰色の壁一色で終わっちゃだめだぞ」 圭介は言うのだ。 だから、ここから出よう!と。 「……ごめんね、私ずっとここにいるのに 抜け道とか見張りのいる場所とかそういうの知らないの 出ようとしたことがなくて……」 「うーん、逆に俺のほうが知ってることが多いかもな、俺、修学旅行中だったんだよ 狸みかけて気になって追いかけて集団からちょっと離れたら、森の中なのに車がとまってて…… そこからさ 何者か……人間の動きじゃなかったな ロボットだったとおもう。それに拘束されて荷台に詰め込まれた。 目隠しされてたからどこをどう移動したのかはわからないけど一時間は走ってたと思うなあ そんでここの施設よ 俺は殺されるとおもったけど 初日になにかレーザーのようなものをあびせられた以外は とくになにをされるってこともなくてなあ 普通労力かけて誘拐したなら、なにかもっと虐げたり実験したりするよな? 具合が悪くなってくることも今のところないし…… ただただ連れてきて生かして、奴らの目的はなんなんだろう?このなにもしないってのが逆に怖いらしくてよ ミナトのやつなんか、泣き続けてるぜ」 ミナトも最近連れてこられた女の子だ。 そして隣室でずっと泣いてる子でもある 話せるような状態ではない 食事にも手を付けていなくて……死んでしまうかもしれないんだ。 この施設につれてこられた子は基本そういう子が多かった。 圭介がピンピンしすぎなんだ おかしいと思う。それとも、男の子ってこうなの? ちなみに、廊下へ出て外へといくことはできないが閉じ込められた部屋同士の移動は可能だ。 右隣が圭介の部屋、左隣がミナトの部屋 という感じ。まあ むこうの生活スペースなので、用がなければ入ろうとは思わないけど。 数分後 圭介の言うとおり、ミルクスープとパンが運ばれてきた 圭介の部屋のほうがもちこまれるのがはやいから 圭介は先に知っていたというわけだ。 私には美味しく感じた、しゃばしゃばと水っぽいスープ。ふわっとしたコッペパン けれどそれが味気なくまずいのだ、と聞くと 美味しい!という自分の感覚に自信がなくなってきた。 ぱらぱらと床にこぼれるパンくず。 それを回収し、さらに トイレなどの清掃にロボットが部屋の奥へと入り込んでいく ぼー、とそんなロボットの背中を見ていると、廊下からけたたましいサイレンの音が聞こえ 私はパンを喉につまらせた 何事だろう? すぐに2体くらいの、頭の部分にカメラのレンズのようなものがついたロボットが四足移動でザカザカとやってきて、ちょい、とのぞくと 隣のー……圭介の部屋の扉をチェックしているのが見えた。 『扉ノセンサー二異常アリ』 『異常アリ』 「…………」 唖然とする私の部屋に、圭介はまたやってくる。 「安心しろって 俺一人で逃げようとしたわけじゃねぇよ 出るときはお前も一緒さ ちょっと試したのよ そっちに配膳ロボがいってる間に、こっちは扉をあけて廊下のほうへ逃げられるのかー……? どうやらロボットが部屋をあけるとき以外はセンサーが反応して 一分もしねぇうちにあいつらが駆けつける様になってるらしい あけてすぐ扉をしめたから 逃げ出すんじゃなくてセンサー異常て判断してもらえたみたいだけど。 でも……こりゃ厄介だな 誰かが奴らの気を引いてもこのサイレンがあるんじゃ出られなさそうだ」 ただ、一瞬見れた廊下はこうなってたな、と なにか細長い紙と鉛筆でさらさらと圭介は図をかきはじめる 永遠とこの廊下が続くんじゃないかってくらい 外は暗い。 「奴らが来るよりはやく身を隠せるとこでもあればよかったんだが、残念ながらそんな場所はなかった。 ……あー余白たりねぇ こんなことになるなら普段からメモ帳とかもってあるけばよかったよ これただのレシートの裏。 たくさん書きたいことはあんのに、かけねえわな」 レシート。 はじめて見るそれに私は驚く なんかピカピカ、ペラペラしている。 本の紙の素材とは違うみたい。 「なあに?この¥1020て」 「それは俺が修学旅行で買った木刀とかキーホルダー……」 「それは必要なものなの?」 「必要かといわれると必要ないけど世の中それでも買ってしまうロマンがあんだよ あーあ、木刀回収されたのが痛いな 武器になったのに」 「木刀あるとロボットでも勝てる?」 「おぉ。勝てるよ……多分」 へえ、私のよく知らない世界だ。 「次は何を試そっかなー…… あのロボットをむりやり押さえつけてみようかな?さすがに危険か…… ちょっとミナトのとこにもいって相談してみるか…… 三人寄れば文殊の知恵ってな」 *** 「馬鹿じゃないの さっきのサイレンそういうことだったの? ふざけないでよ絶対殺されるよ」 瞳に涙をいっぱいためたミナトは、泣き止む代わりに半ギレになった。 「んだと、じゃあなんだ?びくびく怯えて一生この部屋で過ごすわけ?死ぬリスクかかえてでもワンチャン脱出方法考えた方がいいだろ」 「はぁ……信じられない……」 ミナトは、前髪が長く 私より虚ろな目をした、細身の女の子。 黒いワンピースがやたらと似合っていて そういう服を着てみたい私からするとちょっと羨ましい 私はほら、上下青くてボロい布、みたいな……。 そうだ、外に出るとこういうおしゃれも楽しめるんだね。 「うちとしては、この施設のことを知らなさすぎて 下手に動くよりは色々知ってから動きたい…… 5号……あなたは何者なの?」 ミナトは恐る恐る聞いてきたが 残念ながら私にはなにも情報がなかった。 「え、えーーーと、何者といわれても とくに何者でもないというか 物心つくときからここにいたし ロボットからは5号て呼ばれてて…… 多少の読み書きとか話すのは 本置き場があるから、暇すぎてそこで覚えたよ」 「「本置き場あるの!?」」 「あ”……言ってなかった……ごめん」 本置き場は、私の部屋からじゃないといけないらしい。 壁にあいた穴に丸い石をうめると、扉が音をたてて開き始めた。 二人は、おおーと声を上げている この扉の開き方、珍しいのかな? 中央には一つの机、茶色い壁 積み重ねられた無数の本。 薄っすらとした灯り ……窓は完全に塞がれている。 「なんだこれ、色々な国の言葉があって よめねーのがほとんどだな もっと挿絵あるやつねーのかな あ、これは読める、でもくそつまんなそう」 「新刊はあまりないわね……なんか店主が趣味をこじらせた品揃えの悪い古本屋、て感じ あ、これ、これはあとで読もう…… 気分転換になるかも……」 「あのなあ、のんきに気分転換してる暇もねえぞ? まあちょうどいい これだけ紙に余白あれば、作戦会議には充分だな」 あーでもないこーでもないと言い合い 楽しい時間だった。 二人には悪いけど、この時間がずっと続けばいいと思うような。そんな 「……ミナト、はもう大丈夫なの?ずっと泣いてたから……」 私はおずおずと話しかける するとミナトは、取り乱してごめんなさい、と頭を下げた。 「うち……いっつも両親に無視されてて そこで反省しなさい、て庭の倉庫にとじこめられるのがいつもで……そして倉庫の中で寝てたら 気づいたらここにいたから ああ、両親が仕組んだんだ いよいよ本格的に、うちを捨てたんだと思って 心細くて泣いてたの……でも」 圭介が、ふん、と鼻を鳴らす。 「それなら、お前の家に無関係の俺や、お前より前に5号がここにいるのはおかしいよなあ。 完全に別件だろ ここの施設のロボットが 外で子供を誘拐したくて、都合よく倉庫に放置されてるのがいたから連れてこられただけだろうな」 「……言い方! ……うん、話してるうちにそのことに気づいたから すこし気持ちが楽になった もしかしたら……もしかしたらお父さんとお母さん、心配してくれてるかもしれない」 もじもじと指をクロスさせるミナトは、とても健気で愛らしく…… 私は思わず抱きしめてしまった 「わ?!え?5号?!」 「大丈夫だよぉ!きっと出れるし、あなたの両親は絶対にあなたの帰りを待ってるから! ひどいことしてごめんねって思ってるから! だからまずは出て、帰ってあげないと。 私協力するね!」 「……ありがとう……」 ミナトとすこし親密になれた気がした そんな私をみて、目を細める圭介 その視線が なんだか、とてもあたたかい気がして 「な、なあに?圭介」 「……フッ、なんでもねーよ」 すこし、気恥ずかしかった。
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