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家に着くと、夢芽は早速交換日記を開いた。そこには、ワープロで打ったような達筆で乱れのない文字が並んでいる。
今後のアニメのスケジュールやグッズ情報などといった連絡事項の下に、「創作の一助となれば幸いです」と断って、萌のアイディアがいくつか羅列してあった。
「村の母親から見合い話を持って来られる」
「強敵の女勇者登場」
「魔女の残党が再び村を襲う」
「隣国の最強勇者から挑戦状が届く」
「恋をして魔力が弱まってしまう」
などなど、萌は実に多くのアイディアをノートに書いてくれていた。
夢芽のデビュー作、「女勇者が最強で何が悪い?!」は、強者揃いの男勇者たちを圧倒的実力で黙らせて、村のピンチを救って一躍最強の勇者となる女勇者リンの冒険譚だ。設定は真新しくはないものの、個性的なキャラクターや、コミカルでありつつも繊細な描写がこれまでのライトノベルとは違うとして紹介されてから、あれよあれよという間に人気作品となった。正直、夢芽はいまだにこの状況に現実感が湧いていない。けれど、アニメ化にグッズ化、コラボカフェにポップアップショップと、置いてけぼりの夢芽のことなどお構いなしに、現実は進んでいく。
そして、やはりというべきか、続編の打診がきたのが先月のことだった。
夢芽の中では物語が完結していたので、なかなか続きが思い浮かべられずにいた。けれど、続編を望まれているのは素直に嬉しい。なんとか萌や読者、アニメの視聴者の期待に応えたいと思うのだけれど、そう思えば思うほど、どんなアイディアもつまらなく感じてしまい、書いては消してを繰り返しているのだった。
「なんかこう、ポーンといいアイディアが降ってくればいいのになあ」
夢芽はため息を吐き出しながら独りごつ。
新キャラを登場させる? 別の街や村で新たなクエストに挑んでいく? 故郷に戻って賞金で悠々自適に暮らす?
だめだ、どれもしっくりこない。
夢芽は仕事机にしている、なんとか多少の資料とノートパソコンを置ける机に、突っ伏した。緩やかな微睡が夢芽を包む。
あーあ、目が覚めたらアイディアでいっぱいになってたらいいのにな。
夢芽はそんなことを思うと、白紙の目立つ原稿の上に突っ伏してすうすう寝息を立て始めた。
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