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 「……て!」  遠くの方で声がして、体が小さく揺さぶられる気がする。  「起きてったら!」  「わあ?!」  目を開けた夢芽の前には、頬を膨らませた少女がいた。そして、その後ろには豊かな緑の原っぱ。咲き乱れるシロツメクサがなんだか懐かしい。  夢芽は状況を把握しようと、顔をごしごしとこする。  「何ぼーっとしてるのよ?」  少女が夢芽の顔を覗き込む。ふと、ある違和感に気づく。  「え、小さ……てか飛んでる……?!」  少女かと思ったそれは、夢芽の両の手のひらに収まりそうなほど小さく、ふわふわと浮いていた。よく見ると、背中に羽のようなものがついている。でもどこか、既視感がある。  「はあ。あなたここがどこだかわかってないの?」  小さな少女は、やれやれといったように肩をすくめると、腰に手を当てた。  「まさか、私のことがわからないなんてこともないでしょう?」  そう言われて、夢芽は改めて小さな少女を見つめた。そして数瞬ののち、「え?!」と大きな声を出した。  「も、もしかして、メイ……?」  小さな少女は、くるりと宙を一回転すると「大正解」と、にこりと笑った。  メイとは、「女悪」で主人公のリンと行動を共にする、妖精だ。つまり、この小さな少女は妖精ということになる。  「え、でもなんで……? 夢?」  「ちゃんと現実よ」  混乱する夢芽に、メイはピシャリと言う。白くて——妖精であるということを差し引いても——小さな顔に、大きな丸い目は翡翠色をしている。ちょっと癖のある黄金色の髪は、両耳の下で丸くお団子になっている。妖精らしく、花びらを纏ったような服を着ており、仄かに甘い香りがする。そんな、見た目は「THE・妖精」で可愛らしいながらも、毒舌なところが人気のキャラクターだ。  「詳しいことは歩きながら説明するわ。ほら、早く立って」  夢か現実かの区別がまだついていないまま、夢芽はメイに促されてそろりと立ち上がる。改めて、あたりの風景に目を向ける。さっきまでいたはずの、夢芽の自室でないことは火を見るより明らかだ。東京では絶対に見られないような、のどかで豊かな風景が延々と広がっている。  「あ、ちょっと……!」  ぼうっと立ち尽くしている夢芽を置いて、メイが進み始めたので、夢芽は慌てて後を追う。
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