ティトラ・テットと青の星。

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 ロジンのテントも端っこにあるので、すぐに着きました。ちょっと待っててねと言って、ロジンが小さなテントの中に入っていきました。しばらくして、布と、かんかんの箱を持って出てきました。分厚そうな布を地面に広げたら、ちょうど三人くらいは座れそうな大きさでした。 「どうぞ、座って。ごめんね、おれのテント小さいから」 「いえ! ピクニックみたいですね」 「そうかもね。この布、かぶってもらっていい? 今日は月がきれいだから」  はい、と言って、軽そうな布を受け取ります。うーんと大きくて、頭の上にかぶせたら、体ぜんぶ入ってしまいました。どういうことなんだろう、とは思うのですが、まあ聞かなくてもいいでしょう。  精霊も神様も見れないわたしにとっては、こういうことは日常茶飯事なのです。  なんだか綺麗な缶を開けて、ロジンがわたしに差し出してくれます。中身はたくさんのクッキーが詰まっていました。わたしたちが作るシンプルなものとは違って、チョコレートや茶葉、ココアが入ったもの、ジャムが乗っているものも並んでいます。 「食べていいよ」 「ありがとうございます。……おいしい」  バターがたくさん入っているのでしょう、さっくりとした感触と、濃い甘さ、ココアの香り。やっぱり素人が作ったのとは違うなあというわけです。ココアもこんなにたくさん入れることはできません。甘さで頭がくらくらしそうです。  ロジンが嬉しそうにわたしを見ていたので、ちょっとうれしいのと、かなしいのとが混じりました。ハルねえさんを思い出してしまいました。  ハルねえさん。 「……テト?」 「わ、はい。あの、ええと、すごくおいしいです。こんなにたくさん見たの初めてで……」 「よかった。たくさん食べてよ。おれひとりだと食べきれないからさ」  確かに、ひとりだとおなかいっぱいになりそうな量でした。甘えることにして、真っ赤なイチゴジャムが乗っているものを口に入れます。 「テトは、リーダイん家も、チオラのところも嫌?」 「いやって、わけじゃないです」  言葉に悩みます。  嫌われたくない。 「だって、あの、すごくありがたいことだと思います。リーダイのお母さまもわざわざ来てくれて、うちにおいでって。チオラもほとんど毎日来てくれて……」 「うん……」 「でも、その、ご迷惑なので」 「……まあ、ほかのひとのお家に行くのはちょっと嫌だよね」  ロジンがあぐらを組んで、頬杖をつきます。こういうお行儀の悪いことをしているのを見るのはあんまりないので、ちょっとだけびっくりしてしまいました。
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