ティトラ・テットと青の星。

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 相変わらずチオラとリーダイはわたしのことをテントに呼ぼうとしていますが、三日に一回くらいに減りました。たぶん、ロジンがなにか言ってくれたのだと思います。  今日もみんなの最後尾についていって、テントに戻っていきます。テントのランプがついていたので、お客さんのお姉さんたちは起きているみたいでした。お邪魔しますと言ってテントに入ったら、髪の毛が短い方のセルさんが泣いていて、わっ、となってしまいました。  年上の方のリヨンさんが、わたしを見て慌ててしまっているようなので、こくこくうなずきます。一番入り口側に置いてあるわたしのかばんから、青い花のかんかんの箱を取って、すぐにテントから飛び出します。  おうちがこいしいのかなあ、とテントが並んでいる端っこを歩きながら思います。あの街から出たことないから、と初めて会った日におっしゃってました。それでも、お医者さんになりたい、というのは、住んでらした街で、急に流行ってしまった流行性感冒でご家族がお亡くなりになってしまったからでした。  よく冬に流行るインフルエンザが、どういうわけか、リヨンさんたちが暮らしていた街ではずっとかかる人がいなかったのだそうです。今年の始まりに急にかかる人が出てきて、ちいさな診療所しかない街では対応しきれず、そもそも住人の方たちに抗体がないせいで重症化してしまったそうで、何人かお亡くなりになってしまいました。  街の長様の奥様が出産されるということで、旅団の長様がちょうど街にはいらしたのですが、奥様にもインフルエンザがうつったら大事になってしまうと、お城から出ることも許されなかったそうです。旅団から人を呼ぶには、あまりにも雪が深くて、どうしようもすることがなかったと聞きました。  大変だっただろうなあと、我ながら他人事のように思います。去年の終わりから今年の始まりにかけて、わたしの身の回りもすごい勢いで変わってしまって、大変でした。そのあいだずっと、わたし以外はふつうに暮らしているんだと思っていましたが、そんなことはないのでした。  今日の野営地は森の真ん中なので、あまりテントから離れるわけにはいきません。かといって、火の番をしている人たちの中に行くのは面倒ですし。今日はお洗濯がたくさんあって、少し離れた川まで何回も往復したので、足が疲れています。だれもいないでしょうけど、炊事場にお邪魔しちゃおうかなと、つま先の方向を変えます。  わたしが出入りするのは、旅団のひとたちのための炊事場です。明日の朝ごはんの下ごしらえが終わっている炊事場はうんと静かで、誰もいません。テントの間から、夜の火の番をしている大人の人たちが見えました。なにかを真剣な顔で話しています。
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