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お仕事です。
藍色が色濃く層を成して天を塗り尽くす。
地上に光が無ければ空には藍を埋め尽くすほどの瞬きが散りばめられているとわかるだろう。
人はそれらを特別視しながら、自ら作り出した光に塗れて生きている。
「21時34分、国見浩志さん、ご本人ですね」
「は、はい?」
彼は明らかに怯えた様子で隣に現れた私を見た。
それまでの僅かな時間、目にしていた光景が信じられないモノであったうえに、彼が私を見て怯えるのは当然の事だろう。
「あ、あの、おれ、は……」
「どうぞ、こちらへ」
問い掛けてくる声に返事をせず手を差し伸べて誘導した。
眺めていた箇所には、今まさに黒煙を上げて赤い炎をチラつかせている憐れな姿となった車体が転がっている───その中に、彼の身体はある。
これから彼には行かなければならない場所があり、そこに連れていくのが私の仕事だ。
「い、いや……嫌だ!」
事を察したのか、彼は首を振り拒んだ……が、それは想定済みだ。
空に留まる私の手が虚しく、そっと下ろしながら気づかれないほどに小さく息を吐いた。
(面倒だなぁー……)
正直、私はこう言う輩の相手をするのが苦手だ。
出来るなら避けてしまいたいのだが、これを生業としている以上やらなければならないのが仕事というものだ。
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