聖女と悪魔

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「ロロット、その候補生がそれ以上バカな真似する前に(しば)っといて! まったく、だから候補生を助手にするのは嫌なのよ!」  聖女モーリスは苛立ちたっぷりに命令してきた。  まるで八つ当たりのようなそれは面白くないけれど、相手は聖女。ここで文句を言っても面倒くさいだけ。 「はいはい、聖女サマの(おお)せの通りに」  私は悪魔に取り込まれた聖女候補生の背後に回ると、人形のようになっている体を素早く縛り上げる。相手は全裸の少女だけど躊躇(ためら)いはない、放置しておくと地獄に引きずり込まれてしまうのだ。  私は少女を拘束すると目の前の悪魔を睨み据えた。  頭部に円を描く(つの)を生やした造形。その体は巨大な山羊のようだが、耳まで裂けた口からは爬虫類のような長い舌がチロチロ飛び出している。  その醜悪な姿は人間を恐怖に陥らせるものだけど、私にとっては見慣れたもの。さっさと片付けてしまいたい、けれど。 「(みにく)い悪魔めっ、この聖女モーリスが討伐する!」  モーリスは勇ましく悪魔に言い放った。  吠える聖女の姿に、それならさっさと片付けろと内心苛立つ。 「聖女サマ、啖呵(たんか)を切る暇があるならさっさと討伐してはいかがでしょうか」  あ、いけない。思わず本音を言ってしまった。  悪魔と対峙していたモーリスが私を睨んで声を荒げる。 「たかが候補生の分際で生意気言ってんじゃないわよ! あんたは黙って私の、ッ、来た!!」  モーリスは咄嗟に飛びのいた。  ガシャーーン!! ガラガラガラッ……!!  教会の長椅子が破壊される。山羊の悪魔がモーリスに向かって突っ込んできたのだ。  寸前で避けたもののモーリスは青褪める。その破壊力は、生身の人間が体当たりされれば骨や内臓ごと潰されるものだった。  でもそれがどうしたの。悪魔討伐ってそういうことでしょ。
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