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最終話 第三の選択
「フォトン、終わったか?」
「お嬢、ご無事で」
住民の避難を終えたカチュアとアキコが、戻ってきた。
「お聞きしますが、カチュア。戦場は、ここだけではないのですね?」
カチュアに、世界の情勢を尋ねる。
ゼム将軍は、「自分の領地を守るために」、闇に手を染めたと話していた。
ならば、まだ敵は各地にいることになる。
「そうだ。魔王が死んだ後も、ならず者の魔物がはびこっている」
では、答えは出た。
「お世話になりました、カチュア。アキコも、無事に家まで帰れるでしょう」
プロイにこれ以上、被害を与えるわけにはいかない。早く、災厄の元を断たねば。
本格的に、この地とお別れだ。
「冗談じゃねえよ、フォルテ嬢!」
アキコが、わたしを呼び止める。
「あんたみたいな危なっかしい人、ほっとけるわけねえだろうが」
「お屋敷はどうするのです?」
「んなもん、メイド長で賄えるさ。それより、フォルテ嬢だぜ! あんた、料理とかしたことねえだろうが! 旅には料理人が必須だぜ。狩りをする担当も必要だ。今から雇うのか? あんた、メシもキャンプも全部一人でやる気か?」
わたしについてこようとしているのか、アキコは?
「洞穴を探して、適当に雨風をしのげます。食事もたいてい、火で焼けばどうにか」
「ついこの間までスプーンより軽いものを持ったことのない人間が、いきなり料理上手になるかよ! あたしを連れて行け」
かたくなに、アキコは同行を強制してくる。
「危険ですよ。こんな骨の塊より、ずっと強い敵を相手にしなければいけません。わたしは、こういった魔物たちを相手にするのですから」
アキコは「なんとかする」と反論するが、その口調に先程の強みはない。
「ならば、私が同行しよう。二人より三人のほうが、生存率も上がる」
なんと、カチュアまでついてくるというではないか。
「よろしいのですか? テンプル騎士団が、長期間席を外しても?」
「構わない。闇の侵攻は、テンプル騎士団として見過ごせない。母と相談するが、どうせ脳みそ筋肉の家系だ。やってこいって言うさ」
「わかりました。ありがとうございます」
カチュアとアキコを先に行かせて、レーやんを喚び出した。わたしを蘇らせてくれた、魔王レメゲトンと、脳内で会話をする。
「魔王。では、わたしは第三の選択をします」
『と、いうと?』
「この世界は、闇に閉ざされている場所がまだ多くあります。わたしは各地を浄化して回る旅をします。進退は、そこから考えようかと」
『ふむ。たしかに、この地は我の知らぬ魔物や魔族で溢れかえっているようじゃの。ワシに黙ってこの世界を好き勝手するのは、許さぬ。力を貸そう』
決まりだ。わたしは、旅に出る。
後日、本当にカチュアはわたしとの同行を親である女王から承諾を受けた。
「闇の軍勢に、筋肉の神の存在を知らしめよ」と。
プロイ国が用意してくれた馬車に、荷物を積む。
馬車は払い下げの安物で、荷物しか運べない。馬も線が細く、歳を取っている。
だが、わたしはこれがいいと承諾した。旅には、ちょうどいいだろう。
「では、本当に旅をしますよ。後悔なさらぬよう」
「もち!」
レンジャーの装備に着替えたアキコが、リュックを背負い直す。エプロンは、メイドとしてのこだわりらしい。
「うむ」と、カチュアも同行する。
『ずいぶんと、賑やかになったのう』
精霊レーやんこと魔王レメゲトンが、わたしのそばで笑う。
「わたしも予想外でした。仲間ができるなんて」
今後、わたしの安らぎはない。待っているのは、戦いだけだろう。世界が浄化される度に、わたしの居場所はなくなっていく。
それでも、かつてのわたしのように苦しんでいる人を救えるだけマシだ。
「レメゲトン、あなたの居場所はわたしが作ります。それまで、力を貸してください」
『期待しておるぞ。魔王の栄光は、お主にかかっておる』
「はい。いただいた筋肉にかけて」
(完)
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