肉と骨、決戦

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肉と骨、決戦

 ゼム将軍のサーベルが、粉々に砕け散った。  武器を失ったというのに、将軍は不敵に笑う。 「フム。どうやら、あなたを倒すにはこの武器では少々弱かったようじゃの」  将軍が、拳を固めた。素手で戦うというのか? てっきり、武器を召喚するものだと思っていたが。 「武器を捨てた?」 『あやつは、全身が凶器のようなものぞ。フォトン、油断するでない』  警戒はすべき、と。 「悪いがお嬢さん、ワシにとって武器はハンデじゃ。リーチが多少長くなっただけぞよ」 「そうですか。ならばこちらも、ハンデなしと参りましょう」  ロッドを、地面に突き刺す。わたしが選んだ武器も、自分の肉体だ。 「あなたは直接、拳で殴りたかったのです」 「なんとも。自分が勝てると申すか。世間知らずも程々になされよ」 「世の中を知らないのは、あなたです。自分がもっとも強いと思っている」 「事実」  ゼム将軍は、切られた腕を再生させる。 「ククク、ここまで熱くさせた相手は、あなたが初ですぞ。存分に生を散らしなされ。そして、死んでも死に切れぬ後悔を」 「あなたが後悔すべきは、わたしにケンカを売ったことです」  わたしを毒の呪いで殺そうとし、我が屋敷に殺し屋を放ち、危害を加えた。  その怒りを、思い知るがいい。  こちらの蹴りと、将軍のハイキックがぶつかり合う。  キック力は、互角のようだ。いきなり大技を狙うのは、得策ではない。 「見事なり。やはりあなたは、殺すには惜しい。だが、生かすわけにはいかぬ」  将軍の両手に、鬼火がゆらめく。死の属性を、攻撃に込めたか。 「けあ!」  将軍の手刀が、わたしの頬をかすめる。  それだけで、魂が削られる感覚があった。全身が凍りつきそうなほどの、寒気に襲われる。  少しでもダメージを負うと、危ないか。 『フォトン、大事ないか?』 「問題はありません」  ヒーリングの魔法で、持ちこたえる。  だが、こちらの手甲も壊れてしまった。宝玉が光を失い、金属のプロテクターがボロボロと落ちていく。聖属性の効果が、わたしの身代わりになってくれたか。 「これでもう、アンデッド再生を止めることはできぬ。お主を始末し、新たなアンデッド部隊を結成してくれよう」 「その前に死んでしまうと、想像もできないとは」 「ほざくがよい!」  続いて、将軍の手刀がこちらの心臓を狙う。  あんな攻撃を直接食らっては、たとえ軽く触れただけでも絶命してしまうか。  だが、当たらなければ無意味である。  わたしは逆立ちして、コマのように回った。  ゼム将軍の後頭部に、カカト蹴りを叩き込む。 「むぐ!」  首の骨が、砕ける音を聞いた。
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