浄化

1/1

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

浄化

「あなたがしようとしたこと、そっくりお返しします」  立ち上がったわたしは、将軍の腹に一撃を見舞う。 「ふんふんふんふんふんふん!」  ドスドスドスと、将軍の胴に何度もボディーブローを叩き込んだ。パンチを浴びせながら、聖属性の魔法を注ぐ。  ゼム将軍の細胞が、破壊されていくのがわかる。 「おおおお。バカなっ。これが、魔王の力か!?」 『違うぞよ、死神よ。これは、フォトン本来の力じゃ。我は、命を授けたに過ぎんぞ』  魔王は、聖なる属性の魔法なんて持っていない。魔王は魔力を貸してくれているだけで、この魔法パンチはわたし本来の戦い方だ。 『お主の敗因は、とっととフォトン……フォルテ嬢を殺さなかったことなり。じわじわとなぶり殺して、闇に引き入れようとしたことなり』  病んだ相手をダークサイドへ落とすなどという遠回しな攻撃で、このフォルテが落ちると思っていたのが、そもそもの間違いだった。  わたしは穢されれば穢されるほど、怒りに満ちる女である。  その執念、怨念が、魔王を呼び寄せたのだろう。  ダークサイドへわたしが落ちたとすれば、それは怒りによってだ。  結果、わたしは安らかなドレイに堕ちることなく、魔王として死と戦うことを決めた。 「おしまいです」  最後の一撃として、アッパーを打ち込む。  夜の闇へ、ゼム将軍の身体が飛んでいった。 「むおおお!? 無念!」  ボン、とゼム将軍の身体が、上空で弾ける。  聖属性の魔力を注がれて、肉体が耐えきれなくなったのだ。  曇っていた夜空が、白んでいく。  天国への階段とも称される陽の光が、雲をかきわけて地面へと降り注いだ。 「大地が、浄化されていますね」 『この領域を侵食していたゼム将軍が死んだことで、神の加護がこの地を清めているのだ』  将軍との戦いで失った手甲まで、復活し始めた。力を失ってサビついていたのに、すっかり元通りに。 「なんだか、わたしまで浄化されているみたいです」  太陽の陽を浴びていると、わたしも草原に横たわりたい衝動に駆られた。安らかな死を、迎えたくなる。  ダメだ。抗えない。 『うむ。お主の肉体はもはや、魔王じゃからな。聖なる属性とは、相性が悪い』 「わたしが死ぬと、あなたも死んでしまうんですよね?」 『そうじゃ。引き返すなら、今ぞ。このまま安らかに死ぬか、世界を支配して、一生太陽の下で暮らせない生活を送るか』  せっかく生をいただいたのに、また死ぬ憂き目に合うのか。  まだまだ世界は、知らないことばかりだというのに。 『すまぬ。これが、魔王の呪いなのだ』  なるほど、わたしは安住の地では暮らせないと。 「あやまることはありませんよ。これからのことを、考えましょう」  生きるために、この地を離れよう。それだけは決める。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加