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浄化
「あなたがしようとしたこと、そっくりお返しします」
立ち上がったわたしは、将軍の腹に一撃を見舞う。
「ふんふんふんふんふんふん!」
ドスドスドスと、将軍の胴に何度もボディーブローを叩き込んだ。パンチを浴びせながら、聖属性の魔法を注ぐ。
ゼム将軍の細胞が、破壊されていくのがわかる。
「おおおお。バカなっ。これが、魔王の力か!?」
『違うぞよ、死神よ。これは、フォトン本来の力じゃ。我は、命を授けたに過ぎんぞ』
魔王は、聖なる属性の魔法なんて持っていない。魔王は魔力を貸してくれているだけで、この魔法パンチはわたし本来の戦い方だ。
『お主の敗因は、とっととフォトン……フォルテ嬢を殺さなかったことなり。じわじわとなぶり殺して、闇に引き入れようとしたことなり』
病んだ相手をダークサイドへ落とすなどという遠回しな攻撃で、このフォルテが落ちると思っていたのが、そもそもの間違いだった。
わたしは穢されれば穢されるほど、怒りに満ちる女である。
その執念、怨念が、魔王を呼び寄せたのだろう。
ダークサイドへわたしが落ちたとすれば、それは怒りによってだ。
結果、わたしは安らかなドレイに堕ちることなく、魔王として死と戦うことを決めた。
「おしまいです」
最後の一撃として、アッパーを打ち込む。
夜の闇へ、ゼム将軍の身体が飛んでいった。
「むおおお!? 無念!」
ボン、とゼム将軍の身体が、上空で弾ける。
聖属性の魔力を注がれて、肉体が耐えきれなくなったのだ。
曇っていた夜空が、白んでいく。
天国への階段とも称される陽の光が、雲をかきわけて地面へと降り注いだ。
「大地が、浄化されていますね」
『この領域を侵食していたゼム将軍が死んだことで、神の加護がこの地を清めているのだ』
将軍との戦いで失った手甲まで、復活し始めた。力を失ってサビついていたのに、すっかり元通りに。
「なんだか、わたしまで浄化されているみたいです」
太陽の陽を浴びていると、わたしも草原に横たわりたい衝動に駆られた。安らかな死を、迎えたくなる。
ダメだ。抗えない。
『うむ。お主の肉体はもはや、魔王じゃからな。聖なる属性とは、相性が悪い』
「わたしが死ぬと、あなたも死んでしまうんですよね?」
『そうじゃ。引き返すなら、今ぞ。このまま安らかに死ぬか、世界を支配して、一生太陽の下で暮らせない生活を送るか』
せっかく生をいただいたのに、また死ぬ憂き目に合うのか。
まだまだ世界は、知らないことばかりだというのに。
『すまぬ。これが、魔王の呪いなのだ』
なるほど、わたしは安住の地では暮らせないと。
「あやまることはありませんよ。これからのことを、考えましょう」
生きるために、この地を離れよう。それだけは決める。
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