病魔撃退

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病魔撃退

 屋敷の三階から落ちたというのに、傷どころか痛みもない。 「これが、新しいわたし」  手足が、ムキムキになっている。細マッチョと言うべきか。 『ほほう。フォルテよ。こやつ、使い魔であるぞ』  庭に転がっているモンスターを見て、魔王レメゲトンが助言をしてくる。 「使い魔とは?」 『誰かに指示されて、動いておる。何者かが放ったのじゃ』  ならば、聞き出さねば。 「誰に命令されていたのか、言いなさい」  地面でのたうち回る病魔に、問いただす。  だが、魔物は暴れるだけで口を聞こうとしない。 「早く」  足を一本、踏み潰してやった。  どのみち、このモンスターは生かして帰さない。  また、魔物は絶叫して暴れだす。 「大方、ゼム将軍あたりでしょうね」  隣国に仕える、有力者である。  野心家のゼム将軍は、この肥沃な土地一帯を狙っていた。そのため、嫌がらせをサれることも多い。  父上は気丈な方だったが、わたしの世話に気を取られ、なかなかゼム将軍の対処ができないでいた。  もしかすると、わたしを弱らせたのはゼム将軍かもしれない。  『使い魔の痛みは、術者にダイレクトに伝わる』 「それはすばらしいですね。もっと、なぶりましょう」  わたしは、魔物の折れた方の足を掴む。そのまま、魔物の背中を岩に叩きつけた。 「待て! 話す! 話すから許して!」  魔物がようやく、口を開く。話す気になったようだ。  だが、もう遅い。 「もう、しゃべれなくしてあげますね」  わたしが受けた、一七年分の痛みを、わからせる。  何度も岩に、魔物を叩きつけた。顔の原型を留めないほどに。絶命しそうになったら、魔力を注ぎ込んで傷を直した。回復次第、また潰す。  自分の力を試すには、ちょうどいいかもしれない。 「やめてくれ! やめてえ!」 「イヤです。あなたは一七回殺します」 「待ってぐへえ!」  とうとう、絶命してしまったようだ。 「弱いです。使い魔なんて、こんなものですか。もっと張り合いのある相手がいいですね。あなたとか」  物陰に何者かが潜んでいると、わたしは察知していた。  暗殺集団か。もしもわたしが死ななかったら、直接殺そうとしたのだろう。 「よろしい。かかってらっしゃい」  武器はないが、わたしは身構える。 「フォルテ様! 大事ありませんか?」  メイド長が、わたしに駆け寄ろうとした。 「来てはいけません! あなたは両親を守って!」  暗殺者は複数だろう。家に入れるわけにはいかない。 「ですが!」 「指示に従いなさい!」 「は、はい!」  後ろを振り返って、メイド長を下がらせる。  そのスキを、暗殺者が見逃すはずがない。やはり、懐に飛び込んできた。 「ええ、そうでしょう。この時を待っていました」  わたしは暗殺者にハグをして、背骨をへし折る。 「少々お待ちを。あとでリンチしてあげます」  ボン、と、わたしは跳躍した。  二階の窓から入ろうとした暗殺者に飛びついた。 「玄関からお入りを」  そのまま、暗殺者の肩を握りつぶし、地面へ叩きつける。  最後の一人は、わたしに真正面から飛びかかった。手にはナイフを持っている。  暗殺者の身体が、直角に吹っ飛んだ。ピキ、と心地のいい音を鳴らし暗殺者は全身の骨がくだけて絶命する。 「これぞ、正真正銘の闇バイトですね? ゼム将軍に指示されたことを、後悔させてあげましょう」  さっき背骨を破壊した暗殺者の身体を、実験のように潰していく。  体の動きが、軽い。普通、寝たきりからまともに動けるようになるためには、多少のリハビリが必要のはず。  自分が動けるようになったらやりたいことを、毎日脳内でシミュレートしていたためか。  人を殺しても、なんのためらいもない。魔王が憑依したためだろう。 「魔王なのに、魔法はほとんど使わないのですね?」 『接近戦のほうが、楽しいからのう。後ろから魔力の弾をパンパン撃っても、つまらん』  とにかく、素手で賊を全員殺した。  だが油断はできない。相手はゼム将軍だ。何か仕掛けてくるかも……。  と思っていたら、死体がビクビクとうごめく。 「やはり!」  ゼム将軍は、別名【死霊使い(ネクロマンサー)】とも言われている。死んでからが本戦なんて、冗談ではない。 「これぞ我が真の姿! 死に魅入られていればよかったものを! フォルテ令嬢、貴様には死より苦痛を差し上げ――ごほおお!」  魔物がしゃべり終えるより早く、わたしは魔物の腹に一撃をくれてやる。両肩を掴んで、ヒザを見舞った。  アッパー気味のハイキックをアゴにヒットさせ、魔物を空高く打ち上げる。  トン、とわたしは跳躍した。魔物の心臓部に、足刀を突き刺す。  つま先から、わたしは魔王の魔力をモンスターへと流し込む。  魔物の全身に、電流のような速さで魔力が駆け巡った。わたしが一七年間受けた苦痛の数倍の痛みを伴って。 「バカな。ゼム将軍の切り札、がぁ!」  相手の体組織すべてを崩壊された魔物の結末は、爆発だった。  夜だった空が、一瞬だけ昼間のように明るくなる。 「これが、魔王の力ですか。なかなかですね」  強くなりすぎた気もするが。 『ともあれ、ゼム将軍とやらが、はびこっているようだな』 「はい。旅に出なければ」  屋敷にとどまっていれば、両親がゼム将軍に睨まれ、被害が及んでしまう。
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