旅立ちの日

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旅立ちの日

 屋敷は大丈夫だろうか?  玄関に入って、脇にある姿見に自身を映した。 「魔王レメゲトン。わたし目が、目の色が変わっていますね」  わたしの目が、赤く光っている。魅惑的であり、恐怖で身震いした。自分の姿なのに、鏡に映っているのは明らかに魔王である。 『我と同化した証拠ぞよ』  冒険をするなら、ごまかさないと。  エントランスに、メイドたちが集まっていた。よかった、誰もケガをしていない。 「みなさん、大事ありませんか?」 「ございません。ご両親ともに無事です」  メイド長が、両親を伴っている。 「父上、母上。わたしは旅に出ます」 「まことか、フォルテ?」 「はい。あの者たちは、ゼム将軍の使いでしょう」  両親に、事情を説明した。  わたしが生きていると知ると、将軍はまた部隊を率いて襲ってくる。 「みなさん、さようなら。わたしは、死んだことにしてください」 「そんな! フォルテお嬢!」  料理長であるポニーテールの少女が、前に出る。 「貸しなさい、アキコ」  わたしは料理長のアキコから、ハサミを取り上げた。自分の髪をジョキジョキと切る。 「これでよし」  長かった髪を、ショートボブカットにまで短くした。 「ありがとう、アキコ。あなたにはこれを。暗殺者からドロップした、暗器です。これを自分用の武器に加工すれば、狩りがはかどるでしょう」 「ありがてえ、フェルテ様」  鉱石を受け取った料理長が、下がる。 「メイド長ベレッタ、ポーションの瓶を」  わたしはメイド長のベレッタから、ポーションを受け取った。空のポーション瓶の底を切り取り、丸メガネに変える。  メガネをつけて、鏡を見直した。目が、元の青色になっている。  魔族になってしまった目は、これでごまかせるはず。認識阻害の魔法も加えて、令嬢フォルテの名は捨てる。 「あなたにはこれを。暗殺者が持っていた、毒薬です。これで魔法の研究ができましょう」 「恐れ入ります、フォルテお嬢様」  ベレッタが下がった。  最後に、一番小さいメイドにカギを渡す。 「ミニミには、部屋の鍵をあげましょう。わたしの部屋にある本を、全部読んでいいですよ」 「ほんと? ありがと、フォルテさま」  別れのあいさつは、済んだ。  部屋に入って、できるだけ地味めな服を用意する。人の手を借りず、自分で着替えた。徒手空拳で戦うから、パンツルックでいいだろう。その上に、スリットの入ったスカートを穿く。足の運びが、見えないようにするためだ。 「では、わたしは冒険者として生きていきますので。これで」  冒険者として身分を隠し、ゼム将軍に一矢報いるのだ。  さっそく街へ向かって、冒険者ギルドへ。  冒険者登録する際、名前も変えることにしよう。わたしは、新しく生まれ変わるのだ。 『どのような名で、登録するつもりだ』 「フォルテとレメゲトンですから、『フォトン』でいいのでは?」 『うむ、よい名である。お主は今日より、フォトンと名乗るがよい』  こうして、魔王の力を受け継いだ冒険者、フォトンが誕生した。
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