フォトンの旅

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フォトンの旅

 わたしは魔物を撃退しつつ、先を進む。  目的地は、ゼム将軍の根城である。  大型犬サイズのクワガタやハチを、ロッド……棒切れで叩き潰す。本当は軽い木製がよかったが、耐久性に難がありそうで鉄製にしている。  街で必要最低限の、ロッドを購入しておいてよかった。おかげで、魔物退治がはかどる。 『フォルテ嬢、いや今は、冒険者フォトンだったのう。我は素手でも十分強いぞよ?』  虫の魔物を素手で撃退するのは、少々抵抗がある。 「魔王レメゲトン、一つお聞きしても?」 『我の呼び方はレムでよい。お主と融合してしまったからな。なんならかわいらしく、「レムたん」とか』 「レムさん、魔物を殺しても大丈夫で? あなたの配下なんですよね?」 『つれないのう』  そりゃあそうだ。魔王と馴れ合う気はない。 「別の魔王が支配している世界じゃ。思う存分、退治するがよい。討伐依頼も出ておるし」 「たしかに」  ギルドで、『昆虫系の生態系を減衰させてくれ』と、依頼が来ている。数が増えすぎて、ポーションの素材となる薬草やキノコ類、樹脂を食い尽くしているからだとか。  虫型モンスターもいい素材になる。徹底的に駆らせてもらおう。 「意図的な匂いも、感じます。ポーションの生息地を狙って繁殖しているような」  ポーションの素材には、あらゆる生命を活性させる要素も含んでいる。動物たちが集まるのも、不思議ではない。  だが、このモンスターたちは別だ。人を遠ざけるように、改造されている痕跡があった。魔王に憑依されなければ、わからなかったことだが。  がさ、とひときわ大きな物音がした。爆発音も。 「くっ! この糸が邪魔だ!」  赤い甲冑をまとった女性が、クモ型モンスターの糸に絡まれていた。  女騎士のヨロイが、クモの前足によって剥がされていく。傷つける意図はなさそう。おそらく、食べるのに邪魔なのだ。もしくは、繁殖のためか。母体として体内に卵を産み落とされるなんて、想像したくないが。 「離せ下郎!」  必死で抵抗するが、その度に女騎士はヨロイをむしり取られる。とうとう女騎士は、インナーだけにされてしまった。  ひときわ大きなクモが、女騎士の腹を撫でる。あれが親玉だろう。コイツがなにをするのか、なんとなく想像ができた。 「騎士様が、攻撃されています!」  『捨て置け……といっても、助けるのであろう。好きにせい』 「ありがとう、魔王」  わたしは、クモモンスターに飛びかかって、クモの頭を潰す。 「炎では、ダメですね」 『凍らせよ。それか氷の刃で!』 「はい。アイスカッター!」  ロッドに、氷属性のカマを取り付けた。  女騎士を拘束している糸を、氷属性のカマで切り刻む。 「隠れていてください」  親玉のクモが糸を吐き出して、わたしのロッドを封じる。  引っ張っても、取れそうにない。 「力比べですか。この魔王相手に」  声をかけても、クモ型魔物は目をグリグリ動かすだけで反応がなかった。 「自分が生態系の王者だと言わんばかりの、態度ですね。わかりました。どちらが頂点にいるのか、わからせて差し上げましょう」  ロッドを拘束されたまま、わたしはクモの魔物に飛びかかる。  接近してくると思っていなかったのか、クモは反応が遅れた。糸でわたしを振り回そうにも、わたしの加速のほうが早い。  ロッドで、クモの目を潰す。続いて口を。  クモは怒り狂って、わたしに襲いかかろうとする。  だが、そこにわたしはもういない。  代わりに、完全武装に戻った女騎士が。 「ダメージは五分です。あとはお願いしますね」 「うむ。助かる。せやああ!」  女騎士の持つ紅蓮の刃が、クモの首を跳ね飛ばす。 「助かった。私はカチュア・コンラッド」  剣を治め、女騎士カチュアは握手を求めてくる。 「わたしはフォル……フォトンです」  あやうく、本名を名乗るところだった。
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