7人が本棚に入れています
本棚に追加
マッチョ母娘
「我が娘カチュアよ。よくぞ戻りましたね」
女王が、娘であるカチュアの労をねぎらう。
肩が見えるドレスを着ているからか、女王の筋肉がゴツゴツしている。娘と比べても遜色がない。
一方、父王様の方は、気の毒なほどに痩せている。
「魔物討伐、大義でした」
「いえ。クモごときに不覚を取り、こちらの冒険者フォトンに助けてもらった次第です。あのままでしたら、私のシックスパックが撫でられ続けていたところでしょう」
苗床にされるという想像は、なさらないと。まあ、ウブそうだし、性の知識が乏しいのかも。
「運も筋肉のウチですよ、カチュア。日頃から鍛えているから、運を引き寄せることができるのです」
女王の言葉は謎理論だが、妙な説得力がある。
運も筋肉の一つとか、パワーワードすぎるだろ。
「フォトンと言いましたね? 娘カチュアを助け出してくれたこと、感謝いたします。報酬の路銀と、装備を持ち帰りください」
豪華なトレーに、金銭と豪華な装備品が乗っていた。
装備は正直、間に合っている。とはいえこれは、受け取らないと逆に失礼なやつだ。
この宝玉付き手甲は、いいな。肩までカバーしてくれるだけじゃない。宝石に浄化の魔法がこめられていて、手をかざすと一瞬で周りのアンデッドが消滅する仕組みだ。
『魔法の法衣も、装飾が鮮やかなだけではないぞよ。軽さもアップしておる』
「さすが王国装備ですね」
精霊レーやんこと、魔王レメゲトンとともに、装備の目利きをする。
ロッドも新調し、より戦闘力が増した。
『報酬装備など換金アイテムと相場が決まっておるが、この女王はわきまえておるな』
レーやんのいうとおりだ。我々が今必要としている装備を、女王は理解している。
「ありがたき幸せ。ただわたしとしましては、馬を一頭お貸しいただければ十分だったのですが」
「ゼム将軍のもとへ行くと、おっしゃっていましたね?」
「はい」
「あなたはたしか、ここから南東にあるエアロサ国から来たのでしたね。たしかにあそこを抑え込まれては、親交のある南の国家との繋がりを絶たれてしまいます」
わが故郷へ侵攻を、ゼム将軍はあきらめない。撃退しておきたかった。
「急ぎますので、これにて」
「待ちなさい、フォトン」
わたしが立ち去ろうとすると、女王に呼び止められる。
「我々にとっても、将軍は敵です。今回の一件が、将軍の仕業だという証拠も掴みました。打倒する大義名分ができたというもの。ぜひ討伐に、ご同行ください」
ゼム将軍の所属するネロック王国からも、将軍撃滅の了承も得ているという。
私利私欲で魔物を動かしていたことが発覚し、将軍は完全に孤立しているらしい。
「しかし、彼はネクロマンサー。これまで殺してきた相手を配下として、ネロック国の軍事力さえ超えるスケルトン兵を率いているとか。油断なきよう」
「はい。心得ております」
「そうそう。このカチュアも連れていきなさい。彼女はテンプラー、神に仕える騎士です。浄化魔法、治癒は自分でできますから、あなたの手をわずらわせることはないでしょう」
女王から話を聞いた直後、近衛兵から伝達が。
「多数のスケルトン兵が、この国に押し寄せています。ゼム将軍と思われます!」
「もう来ましたか。おそらくネロックもやられたでしょう」
荒々しく、女王は騎士団に指示を送る。
女王に、わたしは提案してみた。
城の守りは、騎士団に請け負ってもらう。
わたしとカチュアは少数精鋭で、直接ゼムを叩く作戦だ。
「危険ですが、カチュアはわたしが守ります。突破口さえ開いてくれれば、あとはわたしが単騎で」
「そういうわけにはいかない! フォトンだけを行かせるなんて」
「わたしには、その方が都合がいいのです。この装備もあります。負けはしません」
大軍勢を相手に、カチュアを守りつつ戦うのは難しかろう。
最短で将軍に詰め寄って、叩く。
最初のコメントを投稿しよう!