ゼム将軍

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ゼム将軍

 ネロック陥落の報告は、我が地方にも広まっていたらしい。 「で、フォルテのお嬢もやばいんじゃないかって」 「それで、この戦場に」 「あたしは元々、戦士だからな」  両手剣で、アキコはアンデッドを粉砕していく。 「あなたがいれば、頼もしいです。こちらをお願いします。わたしはゼム将軍のもとへ」 「おう! 任せろフォルテお嬢!」  今はフォトンと名を変えて身分を隠しているが、まあいい。  ゼム将軍の撃退が先だ。あれを倒さねば、アンデッドは何度も再生してしまう。 「邪魔ですね。浄化していきます」  プロイ女王からもらった手甲を、試すことにした。  手甲をはめた腕をかざすと、手から温かい光が。  周囲二メートルほどの範囲攻撃しかできないものの、確実にアンデッドが消滅した。 「おお、アンデッドが溶けていきます」  特に、ゴーストへの特攻がすごい。一瞬で消えていく。 「レーやん、あなたは影響ありませんか?」  レメゲトンは、仮にも魔王だ。神聖属性の攻撃が効いてしまうのでは? 『アンデッド特攻のようじゃからな。魔属性には効果がないようじゃな』  なら、打ち放題か。  とはいえ、連発はできない。チャージには時間がかかる。その上、ゼム将軍には効きそうにない。 『山のてっぺんが、見えてきたぞ』  ようやく、将軍のもとまでたどり着いたようだ。  半裸の男性が、陣形を組んだ兵隊に囲まれている。  兵隊は、青い鎧に身を包んでいた。 『あの甲冑は、ネロックの手のものか』 「なんですか、あの上半身裸の男は? 寒くないのでしょうか」  あれが、ゼム将軍か?  確かに、あの面構えは見たことがある。相変わらず、忌々しい顔だ。  ニヤニヤした表情はやはり、ゼムに間違いない。  しかし、あそこまで病的だっただろうか? 「羅将ヒカルド・ゼム! ネロック王の仇……とらせてもらう」  青い兵隊が、ゼム将軍に斬りかかる。 「クフフウ! また貴重な肉体が集まったわい」  圧倒的劣勢だというのに、ゼムは笑っていた。細い腕に、さらに細い剣を構える。  ショートソードを素手で抑え込み、硬いヨロイごと兵士を両断した。  今度は巨漢の兵士が、ブロードソードをゼムへと振り下ろす。  だが、ゼムは片手のサーベルで、押し返してしまった。 「こいつ、まともじゃない!」 「フン。まともな戦法でネロックを守り通せると考えた、王が悪いのだ」  ブロードソードを切り裂き、返す刀で巨漢兵の腹をサーベルで薙ぐ。  投げナイフが、ゼムの首に飛んできた。  ゼムはナイフを剣で打ち返す。  投げたローグ……暗殺者の首に、ナイフが突き刺さる。 「出で参れ。隠れていても、獣は匂いでわかりまするぞ」  ローグの大群が、ゼムを取り囲む。  しかし、暗殺者をもってしても、ゼムを止めることはできない。  あとはもう蹂躙に等しかった。ネロックの精鋭をまるで相手にしていない。 『あの力は、間違いない。死神の力を会得している』 「死神?」 『我が魔王の力と双璧をなす、おそるべき力じゃ』
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