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行ってきます。
「待っててね、お姉ちゃん。必ず戻ってくるから。必ず助けてあげるからね」
私は、醜い獣と化してしまったお姉ちゃんに声をかけて、歩き出す。もう、私の声はお姉ちゃんには届かない。でも、私が必ず助けるから。お姉ちゃんを精霊に戻してあげるからね。
私の姉、ラベーヌは、このフローリティシア平原を守る花の精霊。美しい花が一面に咲いているのも、お姉ちゃんの加護のおかげ。
元々この大陸、エレボザールは穢れに覆われた闇の地だった。精霊の主、ガイア様はエレボザールに光をもたらすために、ここに降り立った。お姉ちゃんは、フローリティシア平原を守るように命じられた。だからお姉ちゃんは、もう何千年も守り続けてきた。
だけど、ついに限界が来たんだ。この地にあった穢れが、少しずつ、少しずつ、お姉ちゃんの体内に蓄積されて、抑えきれなくなった。
精霊が穢れに染まると、魔獣になる。精霊が魔獣になると、精霊だった頃の記憶が消えてしまって、理性も無くなって、誰彼構わず食い殺すようになる。お姉ちゃんは、そうなってしまった。
だから、私が助けるんだ。お姉ちゃんを元に戻してあげたい。強くて、優しかったお姉ちゃんに戻って欲しい。
それに、お姉ちゃんが精霊に戻ってくれないと、この平原が危ない。お姉ちゃんが魔獣になってから、美しかった花も全部散ってしまって、緑豊かだった草も、大きく立派に生えていた木も、枯れ果ててしまった。この平原を守るためにも、お姉ちゃんを助けないと。
行く当てはある。帝都フォルセティスに、浄化の力を持った人間がいるらしい。エレボザールの穢れを浄化するために生まれてきた人間が。その人間なら、お姉ちゃんの穢れを浄化出来るかもしれない。お姉ちゃんが元に戻るかも。
お姉ちゃんは、フローリティシア平原を守る精霊として、この平原に縛り付けられていて、この平原からは出られない。それは魔獣となっても同じ。だから、私がいない間に外へ出てしまうことはない。
私はこの平原に結界を張った。外から誰かが入って来られないように。これで、お姉ちゃんが人間や精霊を襲う心配はない。
「行ってきます。待っててね、お姉ちゃん」
もう一度だけそう言って、私は帝都フォルセティスをめざし、平原を出た。
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