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車椅子に乗ったその人は直ぐに分かった。確かに歳を重ねているけど、あの写真の面影が見える。彼は桜並木の下でジッと桜の花を見上げていた。
私達はゆっくりとその男性に近づくと彼の前に立った。
私達に気付いた彼が曾祖母と私を交互に見つめている。そしてハッとして曾祖母を見つめた。
「……君と桜の下で……逢ったのを覚えている……」
曾祖母が大きく頷いた。その瞳は涙で一杯だ。
「はい。私、桜の下で正一さんにお願いしました」
「……そうか……生きて帰って桜を一緒に見るんだったな」
「はい、正一さん……」
曾祖父が車椅子の上で両手を広げた。曾祖母はその腕の中に飛び込むと彼はギュッと抱きしめている。
「富子、君との約束が遅くなってごめん」
曾祖母が大きく首を横に振りながら号泣していた。
愛し合った二人が再び桜の下で再開出来た事実に私の瞳も涙が溢れていた。
「曾祖母ちゃん、もう桜を嫌いにならないね」
抱き合う二人を日本からアメリカへ送られた満開の桜が祝福してくれている。昔、この二つの国が戦争していたなんて無かったことの様に。
FIN
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