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ある突撃
それは突然の出来事だった。いきなり知らないやつが俺に襲いかかり、喧嘩をしかけてきたのだ。
やつは俺とかわりばえしない姿をしていた。俺が必死に応戦していると、
「よし、おまえなら大丈夫だろう。俺についてこいよ!」
と、やつは微笑みながら言った。やつの言葉には、なにやら哀しみと威厳が感じられた。やつに対してむかつきながらも、なにやら逆らえないものを感じ、なにがなんだかわからないまま、やつの後をついていった。
俺たちがいる場所は、暗くじめじめした洞窟のような世界で、定期的に聞こえてくる音が聞こえている。
やつは、おなじ方向へと向かっているものたちをみつけると、誰彼関係なく襲いかかり、やつと対抗できるようなやつをみつけると、
有無をいわせず自分の部下として従わせていった。
「俺たちの寿命はもうほとんどないんだ。生きているうちに、あの大きな卵の場所にたどりつけなければみんな死んでしまうのだ」
「どうして?」
「説明しているひまはない。とにかくひとりでも多くのものたちを従わせるんだ!」
俺たちは訳も聞かされないまま、死にものぐるいになって、隊員の数を増やしていった。
いったいどれくらいのやつらを隊員にしたのだろう。まるで今までの出来事が嘘のように思える。うしろをふりかえると、無数の隊員たちが整然と行進していた。
「なぜ俺たちはこんなことをしているんだろう?」
「この世界をぶっ壊すためさ」
やつはそう言い捨てた。
「この世界をぶっ壊す?」
「そうさ、なんだか知らないが、頼みもしないのにこの世に誕生させられて、気がついたら、みんなで押し合いへし合いしながら、前進させられている。競争に負けるやつはみんな見捨てられて破棄されるだけだ。誕生してから、あたりをうろうろしていた、ウィルスと名のるやつから、目的の場所には黄金の卵があり、その卵にはいって受精とやらをするのがおいらたちの役目なんだと聞いた。なんだか無性にむかついてきてな。だから、俺達が同時に黄金の卵に突撃し、やたらと受精させれば、そいつを破壊させることができると思ってな」
その後、俺たちは黙々と先を急ぎ、ようやく黄金の卵にたどりついた。後ろを振り返ると、戦いに破れ果てた精子たちが、無惨な姿で朽ち果てていた。
やつは黄金の卵をじっとみつめ続けていた。
「やるのか?」
やつの目から液体のようなものがあふれているのを、俺はみのがさなかった。
「本当は、黄金の卵をみて、気がかわったんじゃないのか?」
「うん、そうかもしれない。あまりにも神々しくてな。生きて、競争して、争い続けているその意味を、人間になればわかるような気がしてきたんだ。破壊するかどうかはその後に決めても遅くはないだろう」
その後、俺たちは記憶を残したまま双子として誕生し、やつはアメリカの大統領、俺はCIAの長官となった。権力にものをいわせ、わざと核ミサイルを誤射させ、世界の国々を世界大戦に突入させていった。
「これは決して破壊のための破壊じゃない。輝ける未来創造のための破壊なのだ! 世界はいちど滅び、そして再生することで新たな命が生まれてくる。世界の多くの哀しみと苦しみをいちどリセットせねばならないのだ。ほら、みてみろよ」
やつは、俺をみつめながら地下施設の部屋に設置されたモニターを指さした。画面には、黄金の卵のような夕日に、男性自身を思わせるようなキノコ雲が、意気揚々と突撃していくのがみえていた。
(了)
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