じゃあな

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じゃあな

誰もが驚いた。 その場にいる全員が驚いた。 宝も、折原も、俺も。 新美はこれまでに聞いたことのないほど大きな声で言った。 まずそれに驚いた。 次に、大きな声で言った内容がなかなかな暴言だったことだ。 暴言なんて絶対に吐かなそうな感じなのに、するするとその言葉は出ているようだった。 さらに、これまでに見たことにないほど、顔は真剣だった。 その顔はとても強い志をもっているような、それは俺には到底できないような、そんな顔だった。 少しの沈黙。 その沈黙に耐えられなくなったのか、遂に口を開いた。―誰が? 「あーもう!分かったって!出ていけばいいんだろ!俺がいなくて困っても知らねえぞ!」 無論、折原が。未だにそんな事を言っているのか。 「わかったわかった出て行け!」 宝もまだまだ怒りの炎は燃えているようだ。 新美は、もう何も言うことはないと言わんばかりに、真剣な目つきで折原を見ている。 「じゃあな折原」 俺はその一言だけだった。その一言に、今の俺の全てを詰め込んだ。 その返事はなかった。 代わりに、折原はこの場を去った。 折原は去ったものの、その後の空気は良いものとはお世辞にも言えなかった。 当然、一番ダメージを受けているのは新美だろう。 正直に言わせていただくと、別にどうでもいい…とは言えない。 俺は死んでもいいが(というか死にたいのだが)、宝や新美は当然生きたいだろう。 今この状況は、生きることはとても困難だ。 実力も十分大事だろう。 しかし、それ以上に「メンタル」というものは、「精神力」というものは、非常に影響してくる。 少年漫画などでありがちな、「突然信頼していた味方に裏切られて、色々な思い出がでてきてしまい、攻撃できずボコボコにやられる」みたいな感じのやつだ。 結局何がいいたいか。つまり、今現在の宝と新美の生存率は非常に低いということだ。 このままだと、ここまで来たのに全滅、なんてこともありうる。 俺の願いは「死ぬこと」だ。が、この状況下では、自分は生きないといけない。 なぜか。宝と新美、二人のメンタルをなんとか持ちこたえさせるために、 俺が、この状況ですらどうでもよく感じる俺が、こいつらの光、助けとならなければいけないからだ。 今までに、こんなに自分が使命を感じたことはないかもしれない。 いや、そんなことはどうでもいい。俺は、こいつらを助ける。 そして、生かす。
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