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歳三は豪快にブンと風を切る音をさせて木刀を振り下ろしてから再度構える。如何にもこれから打ち込むぞ、という風に見える。
しかし飛び出したのは足払いだ。まるで消えるかのように素早い動作でしゃがみ、脚を引っかけようという場面だ。
常に成功してきた不意打ちだが、今回は相手が悪過ぎる。
完全に見切って宙に飛び上がって避け、しかもその右手から伸びる木刀は首元目掛けて突き出される。
それは辛うじて避けた。危ないところだ。寸止めする気があるのか疑わしい程の勢いだったので、避けられなければ喉を潰されていたかもしれない。
避ける、というのは良くいい過ぎた表現であった。
正しくは、よろめいて後ろに崩れた姿勢の結果だ。剣先が届かないと判るや否や、わざと真似をしたのであろう総司の足払い、というかむしろ蹴りに近いものを強かに食らい、仰向けに倒された。
体躯に跨るように着地すると、歳三の顔面ギリギリに木刀を突きさす。
「ほら。本身なら死んじゃってましたね」
真剣で立ち会っていたなら死んでいた、というのは嘘だ。木刀でも殺そうと思えば可能である。
つまり、自分が本気なら殺せた、と言っている。
嫌悪していると言ってはいたが、この状況を愉しむ趣味はない。すぐに身を離し、礼法通りに腰間に納刀する動作をした。
ちなみに試合開始時の礼法では抜刀する動作をするが、総司はぐっと鯉口を切ってスラリとやや下向きに刀身を滑り出してからヒラリ翻し構える、つまり鞘から抜くのに近い所作で行う。現代の剣道でもこのようにする剣士を見かけるが、頗る見栄えが良い。
「……それにしても、目録をもらったなんて疑わしいですね。土方喧嘩流、とでも名乗った方が良いんじゃないですか」
あくまで冗談めかして笑っているが、弱いと言ったわけではない。それ程に、良くいえば独創的だからだ。各地で道場を点々としては勝ちを得て来たのも、滅法強いという前提に加え、型に嵌らない打ち込みに他流派では対処できないから、というのも大きな理由である。
「足払い遣おうが目潰し遣おうが関係ねぇ。勝ちゃあいいんだろ。実戦を見据えてるのは天然理心流も同じじゃねぇか」
不服気に不遜な態度で胡坐を掻いている。
「僕には勝てませんけどね」
今更書かずともわかりそうだが、歳三は怒りの沸点が低い。これでも我慢したほうだ。
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