林檎様

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兄が死んだ。あの優しくて恨む相手などいなかったあの兄が。兄の性格から殺人事件ではないと思う。なら母の言っていた林檎様が原因なのだろうか。 そして母は何者なのだろうか。あの言動から林檎様とやらのことを色々と知っていそうだ。俺も林檎様の事は少しは聞いていた。林檎様とは、この山の守り神で、どこかの家の長男が代々林檎様の能力を受け継ぎ、この山を守っているらしいのだ。なら兄は何をしたというのだろうか。 そして林檎様とは何なのか。色々調べてみないとわからなさそうだ。町に出て資料館にでも行ってみるか。俺の家はどちらかと言うと田舎なので、町にでないと色々なものが買えない。たまに手伝いでお使いにいったりしているが、資料館に行くのは久しぶりだ。 坂を自転車で下る。流れてくるそよ風は非常に気持ちいい。資料館は坂を下った後すぐ見える映画館の裏側にある。俺がすんでいる村は伝統工芸品等を作っている家も多いので資料館にもそこそこ資料はある。 資料館に入り、守り神や呪いのコーナーに行った。たが、林檎様の資料は見当たらない。あまり知られていないものなのかもしれない。十七年間村で暮らしてきたが、俺もあまり知らないくらいだったからだ。 そもそも、人間が代々能力を受け継ぎ山を守っているわけなので人間を殺すことは不可能なのでは?本当に林檎様の仕業なのだろうか。それに母はあのときおかしくなっていたので林檎様も作り話ではないだろうか。 ふと、棚の端を見てみると古い本があった。題名は薄れていて見えない。 中を開いてみると、小説のようだ。だいぶ昔に書かれたものなのか、文字が最初の一行と最後の一行しか書いていない。 最初の一行は、 『どこ行くの?』 そして、最後の一行は 『約束は守らないとな。』 だった。どんな内容だったのだろう。それはさておき、時計を見るともう午後7時だ。俺は急いで自転車を漕ぎ進めた。
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