会いたい

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会いたい

「もしもし」 「瑞希?」 「うん」 「どうしたの?」 「別に…何してた?」 「小説読んでた」 「ふーん」 「瑞希は、何してたの?」 「何も」 「へー、暇なの?」 「うん」 「そっか」 「何読んでたの?」 「え?まあ…」 「何?」 「宮本輝」 「ふーん」 「知らないでしょう?」 「うん」 「興味ある?」 「ない」 「だよね」  …… 「ねえ」 「何?」 「わたしのこと好き?」 「うん」  …… 「瑞希は?」 「好き」 「何でそんなこと聞くの?」 「別に…」 「ふーん」  …… 「あのさ、この前、パスタをつくったんだけど、  弟が美味しいって言ってくれたの」 「へー、そうなんだ、どんなパスタ?」 「塩こぶと、シーチキンと、シソの葉を入れた  和風パスタ」 「えー、僕も食べたい」 「ふふふ、今度会ったときにね」 「うん」  …… 「瑞希」 「ん?」 「あのさ、八月に花火大会があるんだけど、  来れない?」 「うーん、行きたいけど…」 「だめ?」 「うーん、だって…」 「だって、何?」 「んんん、何でもない」 「だめなの?」 「ごめん…」 「あ、そ」  …… 「おこった?」 「別に…」 「おこってる?」 「おこってない」 「おこってるじゃん!」 「おこってないし…」 「おこってる」  …… 「隆司」 「何?」 「わたし、そっちで聴講生やろっかなぁ?」 「え?そっちで中学校の講師、するんじゃなか  ったの?」  …… 「嫌なんだ」 「え、何が?」 「わたしが、そっちにいくの」 「そんなことないけど…  ていうか、むしろ嬉しいけど」 「本当に?」 「うん」 「そっか」 「何かあった?」 「んんん」 「大丈夫?」 「うん、忘れて」 「え?」 「ごめん、言ってみただけ」 「そうなの?」 「うん、ごめん」 「まあ、いいけど…」  …… 「学祭、見に行くね」 「うん」 「いいなー、わたしも演劇やりたいなー」 「落ち着いたら劇団、探してみたら」 「そだね、まずは就職しないとね」 「何も力になれないけど…がんばってね」 「ありがと」  …… 「あのさ」 「何?」 「関西弁」 「え?」 「わたし、関西弁になってるって」 「ええ!そう?」 「どうしよう、中学生に言われたら」 「何ゆうてんねん、て敢えて言う」 「そんなの、言えるわけないら!」 「あ、静岡弁」 「もう!」 「くくく、瑞希、かわいい」 「知らない」 「くくくく」 「わたし、隆司といつも電話で話してるから、  ずっと関西弁のままやわ」 「いいやん別に」 「まあ、そうだけどね」  …… 「まだいいの?」 「そうだね」 「瑞希から電話掛けてきてるからさ」 「うん、きりがないしね」 「うん、いつまでもしゃべれるよ」 「そうだね」 「今度は、僕から掛けるよ」 「うん」 「じゃあ、そろそろ切るね」 「うん」 「おやすみ」 「うん」 「本当に切るよ?」 「うん」 「うん、しか言ってない」 「そんなことないし」 「本当に大丈夫?」 「大丈夫」  …… 「瑞希から切りなよ」 「わかった」 「おやすみ」 「はあ」 「ため息…」  …… 「おやすみ」 「おやすみ」 「またね」 「うん」  ……    カチャッ  おしまい
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