卵かけご飯と小鳥

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 彼は卵を盗って行った。部屋からいなくなったとき、私は体の向きを変えて机の上を覗き込んだ。白い卵だけなくなっている。そして階段を下りる音がした。台所のシンクで食器をガチャガチャを扱う音がして、しばらく音が無くなった。あの卵には毒薬を仕込んだの。どうなったのか私は想像する。口からよだれを流して倒れている父の姿。その時はまだ毒薬で人が死んだところを見たこともなく、馬鹿げた想像にも思えた。  ガシャン、と食器の割れる音が真夜中の家に響いた。何かが起きたのかもしれないし、ただお皿を落としただけかもしれない。確かめたい気持ちはあるけれど、暗闇の中で自由に動く権利が私にはないように思えた。私はこのベッドの檻に閉じ込められたお姫様、あるいは奴隷。  主寝室にはお母さんがいるのだが、数分間、お母さんが部屋から出てくる音もしなかった。十分に時間が経ってから、諦めたようにお母さんは部屋から出て、階段を下り、キッチンへ行った。そのとき、お母さんはどんな気持ちだったんだろう。
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