先生はそれを遮り、ここにいていいのだと言った。

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 9時5分。始業時間から15分が過ぎていた。  職員会議が長引いているのだろうと、誰かが言った。  生徒達は何も疑うことなくこのチャンスを楽しんでいる。  ケータイデンワを触る子、友人と会話する子、忘れていた宿題を急いで片付ける子、色々な子がいる。  教室は不思議な場所だ。生まれた年が同じ人間が集まる。死ぬ年はバラバラなのに。  その繋がりに、意味などあるのだろうか。  昨日、先生は穏やかな声で私に言った。 「ここにいていいんだよ」  ちゃんと君を見ているから。そう聞こえた。  先生は私の存在を認めてくれた。先生は、はじめて私がやさしいと思ったひと。  国語教師で、このクラスの担任をしている。頼りなさの残る大人のひとだ。  私の席は窓際の一番後ろ。先生が教えてくれた。その席で私は頬杖をつき、薄汚れた窓ガラスを見ている。  生徒達に興味はない。彼らも私になど興味はないはずだ。視線が合うものは一人もいない。  ただ、ここに居ればそれでいい。  そう願われたから、先生がこの教室に入ってくるのを待っている。
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