<1・Farce>

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 ***  話は、二人が幼い頃にまで遡ることになる。  フィオナの家、ファイス伯爵家と。エメリーの家、セブン伯爵家は古くから親交があった。  どちらも同じ伯爵家であり、どちらも長女・長男ではない。そのせいか上級貴族の家柄としては珍しく、二人をかなり自由奔放に育ててくれたのだった。  この国では、女性と男性が等しく家督相続の権利を持っている。フィオナは上に姉がおり、エメリーにも上に兄がいた。お互い、姉と兄がそれぞれ婿と嫁を貰えばいい。自分達はともに貴族でありながら自由な恋愛、交流ができる立場だとかつてはそう信じていたのだった。  残念ながら、壁にぶつかるのはそう遠い未来のことではなかったわけだが。 『ほら、エメリー急いで!置いていくわよ!』 『ま、待ってよ、フィオナ!』  どちらかの家の庭で、駆け回って遊ぶことなど珍しくなかった子供の頃。そう、あれはお互い、八歳くらいの頃ではなかっただろうか。  昔から活発でお転婆、鬼ごっこや木登りをしてしまうフィオナと家で読書をする方が好きだったエメリー。二人は正反対の性格だった。だからこそ、気が合ったのかもしれない。一緒にいる時は、お互いの好きなことに半分ずつ時間を使う。二人でいることで、いつもはあまりしない遊びにチャレンジすることができる。自分とは全然違う性格、性別、趣味の相手と共にいるのはなかなか新鮮で刺激的で、気づけば二人は唯一無二の親友と言っても過言ではない関係になっていたのだった。 『あ……すごい』  エメリーが大人しかった背景には、子供の頃の彼が体が弱かったからというのもある。よく熱を出してしまったり、喘息の発作を起こしてしまうような子供だった。  ゆえに、体力仕事は基本的にエメリーの役目であったのである。その日も、カチマルの木に鳴った木の実を見て、彼は悔しそうに呟いたのだった。 『すっごく、綺麗なカチマルリンゴが鳴ってる。……でもあんな高いところじゃ、手が届かないや』 『しょうがないわね!私に任せておいて!』  そんな時は、フィオナの出番だ。高級なドレスもなんのその、スカートを太ももまでまくり上げて縛ると、靴を脱ぎ棄てて裸足になり、すいすいすいーと登っていく。またあとで母に“なんてはしたない!”と叱られるのは明白だったが、フィオナはいつもどこ吹く風だった。  大体、“母が考える貴族の女性としての理想像”はあまりにも窮屈すぎる。やれ、お淑やかにしろだの、格闘訓練よりも部屋でお勉強しろだの、お茶だのダンスだの歌だの。自分は、そんな枠に囚われて好きなこともできないなんてごめんだ。家の血は姉が継いでくれるのだし、大人になったら家を飛び出して世界中を旅行したり、起業して自分だけの会社を運営したりしてみたい。幼い頃から、フィオナはそんな大きな夢を抱く少女であったのである。
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