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「桜の下からは何が出てきたの?」
好奇心旺盛な従妹は結末をせっついてくる。
猫をも殺す、とはよくいったもので、怖いことは大の苦手のくせに、目隠しの指の間からホラー映画を観るみたいに、悲劇的なエンディングを見届けたいのだ。
「なにも出ないよ、なにを埋めたにせよ50年は長すぎたんだ」
と青年は答えた。
桜は栄養過多で根腐れを起こしていた。
腐熟した根ごと引き抜いて、祖母が手配した業者に焼却を依頼した。
「灰なんかどうするんだろう、お祖母ちゃん」
「〝とてもよい肥料になる〟て言ってたけど」
桜の灰は緑色のおおきな瓶に詰められて、無事に納品されてきた。
青年は中を検めることはせず、まっすぐに地下にある祖母の備蓄倉庫へ運んだ。
イモリの黒焼きや乾燥マンドラゴラと同じ棚に並べて厳重に錠を降ろす。
好奇心の塊みたいな無鉄砲な従妹が、万が一にも興味を持っては大変だ。
取り扱いを間違うと、呪いは術者へ返ってくるというから。
ゴトッ。
棚の中で灰を詰めた瓶が音をたてた。
「くわばらくわばら」
青年はあわてて備蓄倉庫の扉を閉め、鍵を掛けて地上へ駆け戻った。
庭では向日葵が焦げたパンケーキのような陽気な花を咲かせていた。
今日も暑くなりそうだった。
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