金貨と仔馬

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昔々、ある国の暗い森の奥深くに、とても綺麗な湖がありました。湖には、昔住んでいた魔女がかけた呪いがかかっているといわれていました。願いを叶えてくれるという反対の噂もありましたが、怖がって誰も近づきませんでした。 この森の近くの村に、三人の若い娘が住んでおりました。 一人目は、鍛冶屋の家の娘。二人目は、羊飼いの家の娘。三人目は、木こりの家の娘でした。 鍛冶屋の娘、羊飼いの娘、木こりの娘はみな、願いを叶えてくれる湖の噂を信じていました。村には古くから伝わる、湖の噂を歌う子守歌があるのです。そこには、鍛冶屋の娘、羊飼いの娘、木こりの娘が出てきます。 三人とも、それがまさに自分だと疑いませんでした。 「鍛冶屋の娘がやってきて、金貨を百枚望んだら大きいカラスが飛んできて髪と銀貨を引き換えに」 「羊飼いの娘もやってきて、仔馬を一匹望んだら三つ目の仔馬がやってきて娘は泣いて逃げちゃった」 「木こりの娘はしにたがり、湖に頭から飛び込んで魔女の呪いを解いたから金貨も仔馬ももらえたよ」 このような歌だったので、鍛冶屋の娘も羊飼いの娘も湖には近寄りませんでした。 木こりの娘は、違います。「自分ならば、魔女の呪いを解いて、金貨も仔馬ももらえるんだ」と信じたのです。しかし、金貨と仔馬をもらうためには頭から、湖に飛び込まなくてはなりません。 木こりの娘は、さすがに湖に頭から飛び込むわけにはいくまいと日々、頭を悩ませていました。 木こりの娘は、鍛冶屋の娘と羊飼いの娘と友達でした。木こりの娘は、友達にこんな相談をしました。 「木こりの娘だったら、魔女の呪いを解いて金貨も仔馬ももらえるんだってさ。でも、自分だけもらうのはあんたたちに悪いし、湖に飛び込むなんてまっぴらごめんだよ」 鍛冶屋の娘は、気丈に答えました。 「それは、お優しいこと。銀貨がもらえるならば、長い髪なんか惜しくないね」 羊飼いの娘は、首を横に振ってこう答えました。 「三つ目の仔馬なんて恐ろしいわ。可愛い仔馬なら、もらいたいわ」 三人は、色々と相談した結果、村に住む良い魔女のおばあさんに聞きにいくことにしました。おばあさんの作る薬はよく効くので、村の人たちは病気になるとおばあさんを頼りにしました。 「おばあさん、湖の呪いを解いて金貨と仔馬をもらうにはどうしたら良いの?」 木こりの娘は、聞きました。 良い魔女のおばあさんは、びっくりして言いました。 「あれは、呪いの湖なんだよ。願いを叶えてくれるなんて、とんでもない」 そう言うと、三人の娘をすぐに家から追い出そうとします。 三人を追い出すと「絶対に、湖には近づくんじゃないよ」と言って、ドアを締め鍵をかけてしまいました。 村には、もう一人魔女がおりその魔女は、森の中に住んでいました。ちょうど、あの湖の近くに家があるのです。 悪い魔女だと知っていたので、三人は話したことはありませんでした。 「悪い魔女なら、何か教えてくれるかもしれないよ」 鍛冶屋の娘がそう言ったので、二人も賛成して悪い魔女に聞きにいくことにしました。 真っ暗な森の奥を抜けて、湖を通り過ぎ、悪いほうの魔女の家に着きました。 ドアをノックした三人の娘を魔女は、家に迎え入れました。 「湖の呪いを解いて、金貨と仔馬をもらうにはどうしたら良いの?」 魔女は、こう答えました。 「金貨と仔馬をもらうためには、歌の通りにしないとだめさ」 魔女がそう言うので、娘たちは怖がりました。 「鍛冶屋の娘は、髪を引き換えに銀貨がもらえる。羊飼いの娘は、三つ目の仔馬を怖がって逃げる」 魔女は、続けてこう言いました。 「木こりの娘は、鍛冶屋の娘の髪と羊飼いの娘の涙を対価に金貨と仔馬をもらったのさ。木こりの娘が二人を騙して、手に入れたんだよ」 魔女は、大きく口を開けて笑いました。 「今回の木こりの娘は、心が優しいようだ。友達二人と、金貨と仔馬を分けてやるつもりなんだね」 「そうです」と木こりの娘は、答えました。 それを聞いた魔女は怒って、鍛冶屋の娘と羊飼いの娘を魔法で小さなネズミに変えてしまいました。 「それじゃあ、わたしが困るんだよ。私の若さと命は、鍛冶屋の娘の髪と羊飼いの娘の涙で作った秘薬で保たれているんだ。何百年も前にあの子守歌を作って流行らせ、鍛冶屋の娘と羊飼いの娘を騙して湖に飛び込むようそそのかしたのも、私さ」 魔女は、二匹のねずみをかごに入れ物置に放り投げると、木こりの娘の髪を鷲掴みにしました。 「今回は、お前を湖に放り投げてから、あの二人の髪と涙をもらってやろう」 そう言うと、魔女は髪を掴んだまま木こりの娘を湖に連れていきました。そのまま、湖に木こりの娘を落とそうとすると湖の魚たちが、こう歌い始めました。 「魔女のばあさん、木こりの娘を連れてきた。歌の通りにやらないと魔法が効かずに灰になる」 魚たちが歌うと、空を覆っていた黒い雲が割れ、光が差し始めました。 魔女は、日光に照らされ灰となって朽ちていきました。 木こりの娘が魔女の家に戻ると、物置に放り投げられた二匹のねずみは人間の娘二人に戻っていました。 急いで、三人が村に逃げ戻ると、鍛冶屋の家には金貨が百枚、羊飼いの家には立派な白い馬と子馬の二頭が届けられていました。そして、木こりの娘が家に帰ると暖炉いっぱいの銀貨と、三つ目の仔馬がいました。 三つ目の仔馬が蹄を三回鳴らすと、暖炉の銀貨は三倍に増えました。木こりとその奥さんは有難がりながらも仔馬を恐ろしがったので、三つ目の仔馬は娘が世話をすることになりました。 【おしまい】
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