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「よし。じゃぁ、行ってきます」 「行ってらっしゃい、昌浩。気をつけてね」 「うん。彰子もね」 いつものように烏帽子を被り、衣服を整えた昌浩は、優しい笑顔に見送られて屋敷を出た。その肩には物の怪ものっている。 昨夜、覚悟を決めて晴明の部屋に報告に行った昌浩だったが、幸いにもあまり嫌味らしきものは言われなかった。むしろ、帰ってきたならとっとと寝ろ、という感じで直ぐに自分の部屋へ追い返されてしまったのである。 まぁそれは、疲れているであろう孫への晴明なりの優しさなのだろうと物の怪は思ったが、あえて昌浩には言わないでおく。言う必要もないだろう。 そしてその後、自分の部屋に着いたとたん倒れ込むように床に入った昌浩は、今朝自分を起こしに部屋に入って来た彰子によって、跳び起こされた。まぁ、これはいつもの事であるのだが。 「にしても、お前もいい加減彰子の目覚ましに慣れろ?毎回毎回跳び上がってちゃ、疲れるだろうが」 「ん~それは…だってさぁ~」 「だいたい、藤原家のしかも一の姫に起こしてもらえるなんぞ、他の奴ら見れば羨ましい他訳ないぞ?」 「いや、そうなのかもしれないけどさぁ……」 物の怪の言うとおり、他の人からみれば、今自分が彰子にしてもらっている事はすべて、夢のような事なのかもしれない。いや、そうなのだろう。が、どうしても朝の目覚ましには慣れない。 というか、起こしにくる時、彼女はいつもきちんと身支度を整えてやってくる。それに対し自分は、寝起きであるため髪の毛はおろか纏っている衣服などすべてがめちゃめちゃなのだ。その事が余計に、自分を慌てさせる。
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