226人が本棚に入れています
本棚に追加
闇が、広がっている。
光は完全に断ち切られ、発せられた音はすぐに掻き消える。
どこまでも、どこまで行こうとも終わりが見えない、そんな世界。
その中に、ひたすら涙を流し続ける少年が一人。
歳は二十を少しこえたあたりであろうか。まだ若い。身なりはきちんと整えられ、その姿や身に纏っているものからは相当な高貴な身であろうことが予想される。が、既にその顔に、生気はなく、ただ絶望と悲しみだけが浮かんでいる。
――どうして。どうして。
よほど長い間泣き続けたのであろう。透明に透き通っているはずのそれは、赤く濁ったものに変わっていた。
まるで蝦の鳴くような声で、同じ言葉を何度も、何度も喘ぎ続けている。
――会いたい。会いたい。
『叶えてやろうか?その願い』
生温い風が、吹いた。
最初のコメントを投稿しよう!