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2 発足!新生徒会
「えーと、樋口真維ちゃんと、川井柚花ちゃんね」
会議室での歓迎を受けた私たち。
生徒会室へと案内されて、ソファに座らせられた。
「は、はいっ!」
「よろしくお願いしますっ」
目の前の椅子に座る会長さんに名前を呼ばれて、私たちは声を裏返させて大きく返事をした。
「二人とも、そんなに緊張しなくて大丈夫だよ」
生徒会長さんの左隣に座って笑ってるのは、背の高いお兄さん。
ふわふわカールのお姉さんも、会長さんの右に座って私たちをニコニコ見てる。
「「ありがとうございますっ」」
緊張しなくて良いよと言われたものの、やっぱり先輩たちの前だと緊張するよ……!
私は落ち着かなくて周りを見渡した。
生徒会室は、意外にもこじんまりしてる。
今、私たちが座ってるドア側の方には、大きな茶色いソファと丸テーブル。それと、周りにいくつか学校の椅子が置いてある。
奥の方には、学校の机と椅子が一つずつ。そして棚には、色んなファイルと資料の紙束。
左っ側の壁と棚には、歴代生徒会の写真が飾られてある。
これが、生徒会の部屋で、これから私たちがお世話になるところ……。
なんだかワクワクしてきちゃって、口角が上がってくる。
「じゃあ、私たちも自己紹介しよっか」
会長さんが、顔をあげて私たちを見た。
「私は、三年の遠藤千鶴!生徒会会長やってまーす」
いえ〜いとノリノリな会長、千鶴先輩。
元気だけど、真面目な感じもする先輩だ。
「僕は、二年の石本颯天。生徒会副会長です」
生徒会で唯一の男子の先輩の颯天先輩は、この中で身長が一番高くて、サラッとしてる髪が綺麗な先輩だ。
「私も、颯天くんと同じ二年生で、名前は仲井香恋。生徒会庶務やってます!」
香恋先輩は、ほんわかオーラ溢れる優しそうな先輩。ふわふわの髪の毛がすごく似合う。
先輩たちの自己紹介が終わって、私たちはパチパチと拍手。
全員、優しそうな先輩で良かった……。
やばいって噂を聞いた後だったから心配してたけど、今のところは大丈夫そうだ。
と、香恋先輩が何やら紙を配り始めた。
「柚花ちゃんと真維ちゃんは、どっちがどっちの役職に就きたい?」
紙を見ると、『財務』と『書記』の文字が。
私と柚花ちゃんは顔を見合わせる。
「……どっちが良い?」
「わ、私、書記がいいな……」
わたしは、ぼそっとつぶやいた、
財務の仕事内容はちょっとよく分からないけど、私計算そこまで得意じゃないし……。
申し訳なく言うと、柚花ちゃんは嫌な顔ひとつせず、うなずいてくれた。
「じゃあ、私が財務やるね」
柚花ちゃんは、紙の『財務』のところに名前を書き込んでいく。
わあっ、ありがたい……!
ほっと胸をなでおろしながら、わたしは『書紀』のところに自分の名前を書いた。
「よーし。じゃあ、生徒会の仕事説明に入ろうか」
千鶴先輩が、今度は一人一人に、二年生の先輩にもホチキス止めのプリントを配った。
たくさん並んだ文字を見ると、これは年間予定表みたいだ。
「今年の仕事も、大体は去年と変わらないらしいので、詳しい詳細は省きます。一年の二人は、何か読んでて分からないことあったらバンバン言ってね」
「「はいっ」」
私たちは、プリントの『四月』の欄から順に日付ごとに書かれた説明を読んでいく。
四月十日、全校朝礼で新生徒会の任命式。
四月十二日、生徒会新聞のラフ作成。
四月十五日、生徒会朝礼のための事前会議。
……うわぁ、めちゃくちゃ忙しそうだ。まだ三日間ぐらいの予定表しか読んでないのに、既に大変そうな予感がする。
「今月はそこまで重要な行事はないけど、一学期末の目玉行事は、『全国中学校芸術発表会』かな」
千鶴先輩は、紙をめくって私と柚花ちゃんのプリントの下の方を見せてくれた。
「これね、うちの学校が毎年参加してるやつなんだけどね。全国の芸術中学校が集まって、楽曲作ったり踊ったり、演技したり……っていう大会なんだ」
千鶴先輩の説明を聞きながら、私は大きくうなずく。
「私、これ去年の映像を学校のホームページで見ましたっ」
この学校を入学するとき、学校のホームページを調べてて、去年の映像を見たのを思い出した。
千鶴先輩が「おっ。さすがだねぇ」と微笑み、二年生の先輩二人もニコニコとうなずく。
「毎年、二年生がクラス替えしたばっかの中、どれだけ団結してできるか……が鍵なんですよね」
「選抜だけど、私も今年参加できるかもだから、楽しみなんですよ〜」
颯天先輩と香恋先輩も、楽しげに紙を見ながら言う。
去年の桃中は、音楽部門の先輩たちがすごい演奏をしてたり、舞踊部門の先輩たちがかっこいいダンスをしてたりして、すっごい見応えだったんだ!
「これに、生徒会も参加するんですか?」
柚花ちゃんが、千鶴先輩を見て質問した。
「いや、これに参加できるのは、二年生だけ。それも、選抜メンバーだけだけど。でも生徒会メンバーだけは、控え室とか一日の流れの写真を撮ったり生徒会新聞書いたりしなきゃいけないから、同行が許可されてるの」
スラスラと説明していく千鶴先輩。
「でも颯天と香恋は今年、クラスの方で大会に出場するかもしれないから、念のために既に生徒会の仕事はパスしてある。だから当日は、私と一年生二人で仕事することにやるね」
わたしたちを見た千鶴先輩は、ニコッと笑った。やっぱり、説明がすごい上手いっ。さすが生徒会会長!
「ね、真維ちゃんっ。これ、今年は全国の出場校を生で見られるんだねっ!」
「そうだね⁉︎すごいねっ!」
柚花ちゃん、興奮して頬が赤くなってる。本当に、芸術が好きな子なんだなあ。
「そういえば、二人はなんか習い事とかやってるの?」
わたしたちをニコニコ眺めてた千鶴先輩が、聞いてきた。
「えっと、私は小学校からバイオリンを習ってて。来年は、音楽クラスに行きたいなぁって思ってます」
柚花ちゃんが、微笑みながら恥ずかしそうに喋った。バイオリン⁉︎私は楽器全くできないからすごいなぁ……。
「音楽クラスかー!たしか、颯天も音楽クラスだよね?」
「はい、そうです。川井さんも音楽やってるんだね。じゃあ、色んな話できそう」
颯天先輩はニコッと笑う。柚花ちゃんも「はいっ!」と嬉しそうに笑った。
「真維ちゃんは?何か習い事やってる?」
「あっ。私は、ダンス教室に通ってて……」
わたしは小さい頃から、地元のダンス教室に通ってたんだ。
この学校を選んだのも、地元の中学にはない、珍しいダンス部や舞踊クラスがあったから。
ダンスがめちゃくちゃ得意!ってわけではないけど、それなりには踊れる方だと思う。
「ダンス教室ってすごいじゃん!二、三年の生徒会メンバーはみんな運動神経悪いからなぁ。貴重な人材だね!」
千鶴先輩に『運動神経悪い』でまとめられてしまった二年の先輩たちは、揃ってアハハと苦笑い。
そんな先輩たちを見て、わたしも思わず笑ってしまった。
「千鶴先輩と香恋先輩は、何クラスなんですか?」
柚花ちゃんが、食い気味に質問した。
「おっ。よくぞ聞いてくださいましたっ。私は、演劇クラス!去年の大会ではクラス長もやったんだよ〜」
ニカッとVサインをした千鶴先輩。
「「すごいっ」」
クラス長って、クラスをまとめる重要な役割だよね?
千鶴先輩、二年生の時からまとめる才能があったんだ……!
「私は美術クラスだよ。あんまり、上手くないけど……」
香恋先輩の小さい声に、千鶴先輩が「何言ってんの!」と声をかぶせた。
「めちゃくちゃ上手いじゃん!香恋は一年の時、先輩を差し置いて都の美術コンクールで入賞したんだよ!うちの友達も、めっちゃ悔しがってたし」
バシッと香恋先輩の肩を叩いた千鶴先輩。
入賞……!それも一年生で!香恋先輩もすごすぎだよ……!
「まあ、一年生二人は入学したばっかだし、これからゆっくり選択クラスを考えな。二年の二人は、今年の芸術発表会、私も精一杯サポートするから。出場できるように頑張ってね!」
「「はい!」」
千鶴先輩の心強い笑顔に、颯天先輩と香恋先輩は、大きくうなずいた。
「……ねぇ、柚花ちゃん。生徒会、やばいって言われてたけど、全然そんなことなさそうだね」
こそっと耳打ちする柚花ちゃん。
わたしも、うんうんっとうなずいた。
「だねっ。私、色々楽しみになってきた!」
雰囲気のいい生徒会。まだ仕事内容は全然分からないけど、みんなで協力すれば何とかなる気がしてきた!
私と柚花ちゃんは、顔を合わせてふふっと笑い合った。
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