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3 ドタバタの学校生活
生徒会の任命式を終えて、今日で一週間。
先輩たちもみんな優しいし、仕事もすごく楽しいけど、やっぱり忙しいものは忙しいや。
「香恋、そっちの資料足りてるー?」
「あーっ!足りてないです!颯天くん余りある?」
「僕の方も足りてない……。先生、枚数間違えて印刷したのかもしれないですね」
今日は体育館の保護者会設営のために、放課後に急遽生徒会メンバーでお手伝い。
大量に並べたパイプ椅子の上に、資料の紙束を一つずつ置いていく作業をしてる。
私も、自分の貰った分の紙束は終わっちゃった。だけど、まだ空のパイプ椅子がたくさん!
「あっ、じゃあ私、先生に話して新しいの刷ってもらってきます!」
柚花ちゃんが走って、体育館を出ようとする。
だけどそこへ、一人の男子生徒が歩いてきた。
……先輩、かな?背は高いけど、体はあんまりガッシリしてない感じ。スラリ細い体にスッとしてる目。
なんだか静かな雰囲気の先輩だ。
「これ、資料」
その先輩は、柚花ちゃんに紙束を渡す。
突然のことにびっくりしてる柚花ちゃんは、一瞬固まったあと紙束を受け取った。
「あ……、ありがとうございます?」
柚花ちゃんは、驚きつつもお礼を言う。
そして私の隣に走ってきて、資料を渡してくれた。
それを貰いながら、わたしは男子の先輩から目が離せない。
この先輩は誰だろう?初めて見た人だけど……。それに、なんで手伝ってくれたんだろう?
「わー!てっちゃん!」
その時、後ろで作業していた千鶴先輩が、高い声で叫んだ。
…………てっちゃん?
ポカンとしてるのは、私と柚花ちゃんだけじゃない。香恋先輩も、颯天先輩も目が点になってる。
そんな私たちの前を走って、その『てっちゃん』の横に前に立った千鶴先輩。
「あー、みんな知らないよね?この人、三年の文芸クラスの徹ちゃん!私、一年生の時同じクラスだったんだ」
その説明に、みんな納得した顔でうなずいた。
三年生の先輩か!どうりで、背が高いと思った。だって、颯天先輩よりずっと高いもん。
千鶴先輩から紹介された、てっちゃん……先輩?は、ふわぁとあくびをした後、「大崎翔太です」と言った。
大崎翔太先輩。通称、てっちゃん。
……え、待って?
なんで大崎翔太っていう本名から、てっちゃんっていうあだ名に?
どこに、『てっちゃん』の要素があるのっ?
イマイチ理解できないわたしの顔を、千鶴先輩が見ていた。
「徹ちゃん、よく徹夜で課題やったり文芸クラスの仕事するんだよね。それで、あまりにも徹夜して目の下にクマ作ってるから、みんなから『徹夜の徹ちゃん』って呼ばれるようになったの」
付け足して説明してくれた千鶴先輩に、わたしは「なるほど!」と大きくうなずいた。
だから、てっちゃんなんだ!徹夜の徹ちゃん!男子の先輩だけど、なんか可愛い!
「徹ちゃん、よく生徒会の仕事手伝ってくれるんだよね。ふらって現れて仕事してくれるから、めっちゃ助かってる」
「そうなんですか?」
私は、あんまり覇気のない顔の徹ちゃん先輩を見る。そしたら、眠そうにしてた目が一瞬だけ泳いだ。
「……暇だから」
彼はそれだけ言って、足早に体育館を去っていく。
「暇だから?忙しすぎて徹夜するのに?あーっ。徹ちゃん、なんか隠してるなー!」
千鶴先輩は腰に手をあてて、叫びながら徹ちゃん先輩の方を見てる。
だけど、てっちゃん先輩は振り返らずにスタスタと行ってしまった。
その二人をしばし眺めてた私と柚花ちゃんは、察した顔で笑う。
「……千鶴先輩、もしかして鈍い?」
「あの様子だと気付いてないよね」
柚花ちゃんと、コソコソ内緒話。
徹ちゃん先輩が一瞬だけ目を泳がせて、千鶴先輩から目を逸らした。それって……。
……なんか、中学校って感じの甘い光景を見た気がする!
「青春ですねー。じゃあ、僕らも青春したいので早く仕事は終わらせましょー」
颯天先輩が柚花ちゃんから半分に分けて紙を受け取り、残りの空の椅子にどんどん紙を置いていく。
そうして全てのパイプ椅子に紙を置いて、掃除をして、仕事を終えて家に帰れたのは、夜の七時を回っていた。
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