4 大ピンチの芸術発表会

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4 大ピンチの芸術発表会

四月の半ば。生徒会の仕事も、それなりに上手くこなせるようになってきた頃。 「千鶴先輩ーっ!大変です!!」 生徒会室で、今月の生徒会新聞を書いていた時だった。 大慌てで生徒会室に入ってきた香恋先輩。 その様子に、一緒に作業をしていた柚花ちゃんも颯天先輩も手を止めた。 「どしたの香恋」 「これ!見てください!」 香恋先輩が見せてるのは、スマホの画面だ。 私も気になっちゃって、四人が小さいスマホの画面を揃って見る。 「うちの学校の連絡網?『今年度の全国中学校芸術発表会、聖桃中学校の出場団体は、一団体のみとなります。』…………ええっ⁉︎一団体⁉︎」 代表して読み上げた千鶴先輩が、聞いたことないような声を上げた。 「さっき、この連絡が学校のお知らせメールで来て、二年生が悲鳴あげてましたよ……」 香恋先輩も、ガックリと肩を下げる。 「ど、どういうことですかっ?」 明らかにテンションが下がってる先輩たちだけど、私は全く事態が掴めない。 柚花ちゃんも、困惑した顔で千鶴先輩に首を回した。 「この前、この大会はうちの五つのクラスが出るって言ったでしょ?去年までは、複数の団体が出てもオーケーだったの。だけど何か今年から、それがダメになっちゃったみたい」 千鶴先輩が、テンションダダ下がりの声で教えてくれた。 私は、頭の中を回転させて、事態を把握する。 え、えっと、去年までは、聖桃中の二年生五つのクラスの中で選抜で選ばれたメンバーが、みんなちゃんと出れてたんだよね。 だけど今年は、そもそもその五つにクラスに中から、一クラスしか出られなくなっちゃった……ってこと⁉︎ 去年の映像を思い出して、たしかにそれは大問題だと理解する。 「……うちの学校から一団体ってことは、」 柚花ちゃんが、ハッとした顔で先輩たちを見回した。 「どのクラスが大会に出場するか、戦いが起こる……」 先輩たちも、同時に顔を見合わせた。 「…………ありゃりゃ。これは大戦争だね」 千鶴先輩が、ため息まじりの声でつぶやく。 「せ、戦争っ?」 あまりに不穏な単語に、思わず聞き返しちゃった。 大会出場の枠を争うだけでで、各クラス同士で戦争が起こる……? 「どのクラスも、大会出たいに決まってるでしょ。それにこの学校の生徒、プライド高い人たちの集まりだから。穏便に譲り合うことなんてことないよね」 顎に手を当てる千鶴先輩。 「はい。今、友達に確認したら、既にグループメールで作戦会議起こってますね。うちのクラスが参加するために、どうするか」 素早くスマホでメールを打ってた颯天先輩が、ため息をつく。 「うそ!はやっ!うちのクラスはどうかな……」 香恋先輩も、スマホを取り出してメールをチェックし始めた。 私は、パチパチと瞬きをして生徒会室を見渡す。 そして、隣で腕組みをしている柚花ちゃんに首を回した。 「なんか、大変なことになっちゃったね」 あはは……と苦笑いするけど、柚花ちゃんは難しい顔をしたまま返事をしない。 私はそれでも、柚花ちゃんに話しかけた。 「で、でもさ。案外なんとかなったりするんじゃない?そんなバチバチしたりしな、」 「真維ちゃん、能天気すぎ!」 突然の柚花ちゃんの大声に、私は思わずビクッとした。 「真維ちゃん、ここの学校のこともっと考えた方がいいと思う。わたしも入学したばっかりだけど、みんなこの芸術大会には出場したいって思ってるはずだよ。そんな、真維ちゃんみたいに生半可な気持ちで望んでる人なんかいないよ」 柚花ちゃんの鋭く厳しい言葉は、私だけじゃなく先輩たちも沈黙させた。 「……ま、まぁまぁ、柚花ちゃん。真維ちゃんは入学したてだし……。って、柚花ちゃんもだったね」 千鶴先輩は場を和ませようとしてくれてるけど、柚花ちゃんはそれを無視して私だけを見ている。 私は、真っ直ぐな柚花ちゃんの視線を受けながら、言葉を発せずに黙りこむ。 なんだか胸にじわっとと、黒いモヤがかかっていくような気がした。 そしたら、ハッと柚花ちゃんが眼鏡の奥の瞳を丸くさせた。 「ご、ごめんなさい。私、なんか勢い余って説教みたいなこと……。真維ちゃん、ごめん」 首をうつむけた柚花ちゃんに、わたしは突き動かされるように声をかける。 「……だ、大丈夫だよっ。ごめんね、私の方が悪かった。柚花ちゃんが正しいよ。もっと、真剣に考えなきゃだよね」 笑みを作って話しかけると、彼女はかすかにうなずく。 「……うん。わたし、バイオリンの発表会とかで、選抜に選ばれなかったりして悔しい思いしたことたくさんあったから。だから、先輩たちが本気で出場したいって強く思うのがよく分かるの。……ごめんね、真維ちゃんには関係ないのに」 ———関係ない。 その言葉が、私の頭の中で強く残った。 ……そうだよね。わたしは、バイオリンの選抜を受けたこともないし、それで悔しい思いをした柚花ちゃんの気持ちも、正直よく分からない。 私たちを見ていた千鶴先輩が、息をつく。 「……同じ生徒会のメンバーだけど、大会にかける思いは人それぞれだしね。柚花ちゃんの言い分も正しいし、それを百パーセント理解出来なくても大丈夫だよ。まだ、二人は一年生なんだから」 千鶴先輩にポンと肩をたたかれて、私たちはうなずく。 「……ごめんね、真維ちゃん」 もう一度柚花ちゃんに謝られて、私は「大丈夫だよ」と言うことしか出来なかった。
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