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6 演劇クラス
「ここが、二年生の演劇クラス」
千鶴先輩が、ガラッとドアを開けた。
聞き込み当日の今日。一年生の私たちと千鶴先輩で、二年生のクラスにお邪魔させてもらってるんだ。
千鶴先輩が各クラスの代表者に質問して、それを私と柚花ちゃんがメモする係。
大事な仕事だ……!しっかりしなきゃ!メモ用紙とペンを握りしめて、ドキドキとドアの隙間から中を覗いた。
聞き込み一発目は、演劇クラスの二年一組。
中に入ったら、まず、びっくりした顔の生徒さんたちと目があった。
「…………こ、こんにちは?」
な、なんでこんなに驚かれてるんだろう……と思いながら、私は挨拶。
教室の中は、普通の教室と変わらない。黒板があって、ロッカーがあって、広さも大体同じ。
この演劇クラスの生徒さんは、机と椅子を後ろに下げて、その空いたスペースに立ってるのか何人か。
そして、一段上がった教壇の上に一人リーダーらしき人が立ってて、それ以外の人は紙を持って横の方で座ってる。
多分、劇の練習してたんだろうなぁ……って感じの風景だ。
だけど今は、生徒さんたちみんなが入ってきた私たちの方を見て、固まってる。
…………もしかして。
柚花ちゃんと、目があった。
「千鶴先輩。もしかして、これってアポ無しですか?」
柚花ちゃんが、千鶴先輩を見上げた。
「あー、そうだね。アポ取る時間なかったから、アポ無し!」
千鶴先輩のあっけらかんとした返事に、そりゃ驚かれるよ!と私は拍子抜けした。
千鶴先輩、いつもしっかりしてるのに、たまに何か抜けるんだよなぁ……。
「生徒会長さん!ということは、みなさん、生徒会の方ですか?」
教壇の上に立ってた人が、タタタッと駆け寄ってきた。
「うんっ。突然ごめんねー。ちょっと聞きたいことがあってさ。クラス長って、あなた?」
千鶴先輩が、駆け寄ってきた先輩に話しかけた。
「はいっ。二年一組の演劇クラス長、照美ですっ」
大きな声で返事をした、クラス長の照美先輩。ロングヘアの女子の先輩だ。
普通の声量なのにハッキリと聞きやすくて、聞いてるだけでなんだか元気になれそうな声。
「芸術発表会のことで聞きたいことがあるんだけど」
「あーっ。なるほどです」
照美先輩は、『芸術発表会』って単語だけで、何のことか分かったみたいにうなずく。
そして、後ろでまだ呆然としてるクラスメイトを振り返った。
「あたし、ちょっと会長さんと話してくるので!副クラス長の指示に従って動いて!」
凛と張った、クラスにビリリッと強く響き渡る声。
「「「了解!」」」
クラスメイトは、途端に大きな声で返事。すぐさま副クラス長さんが前に出てきて、劇の練習が始まった。
「わあああっ。すごい……」
指示する人が変わっても、すぐに対応できるんだ。
私は目の前の団結力に感動して、目を見張る。
「ここじゃ邪魔だから、廊下で話そっか」
まだクラスの中を見ていたかったけど、千鶴先輩がさっさと廊下に出ていっちゃうから、私は慌てて後をついていった。
「……そうなんですねぇ」
千鶴先輩から、例の参加団体の話を聞いた照美先輩は、腕を組んで難しい顔。
生徒さんが教室の中から椅子を出してきてくれて、四人で椅子に座った。
私と柚花ちゃんは持参した紙とペンで、話をメモする準備。
ちゃんと、お仕事するぞ!
「参加団体の話は、既にクラス全員知ってます。だけど、それよりもまずは明日の中間発表に向けての練習をしなきゃだから、その話は明日以降考えようってことになってて」
話を聞きながら、例の中間発表って明日だったんだ⁉︎とびっくりする。
そんな忙しい時期にお邪魔しちゃって、大丈夫だったのかな……?
「じゃあ、演劇クラスは出場する気満々なんだね。どんな作品出すつもりなの?」
「明日の中間発表で披露する、創作の『人情恋劇』って作品をもう少し改良していくつもりです」
照美先輩の口から発せられた言葉が、難しすぎて理解できない。
に、にんぎょうこうげき……?こいげき?よく分からないけど、私は紙に『ニンギョウコウゲキ』とメモ。
「あら、楽しそうな題名」
千鶴先輩は、ニコニコ満面の笑みで話を聞いてる。
そういえば、千鶴先輩も三年生の演劇クラスだった。
つまり、二年生からしたら千鶴先輩はわたしが思ってるよりすごいイメージなんだろうな。
「やっぱり劇だから、参加人数はクラス全員だよね?」
「そうですね〜。全員出るつもりで役をふってるので、芸術発表会はなるべく全員で参加したいと思ってます」
大きくうなずいた照美先輩。
「でもね、一団体だけにしても、もしかしたらクラス全員は出れないかもしれないんだよね」
「……えっ⁉︎なんでですかっ⁉︎」
照美先輩は、ガタッと椅子から立ち上がる。
いきなり立ち上がったからびっくりする私と柚花ちゃんだけど、千鶴先輩はそれに動じることなく、冷静に照美先輩を見上げた。
「うーん。ちょっと、色々あるんだよね」
……予算のこと、言わないんだ。曖昧にごまかす千鶴先輩。
言った方が納得するんじゃないかなって思うけど、生徒会長が言わないことを勝手に言うわけにもいかない。
私は口を結んだまま、厳しい顔つきの照美先輩を見る。
「……この問題、生徒会で何とかしてくれるんですか?」
照美先輩の視線に、私たちはウッ……と答えにつまった。
そ、それを解決するために、聞き込みをしてる訳で……。
チラッと千鶴先輩を見たら、先輩は笑顔を消して、真剣な顔で照美先輩を見つめていた。
「……今、なんとかしようと頑張ってるとこ。だから、もう少し待ってて」
千鶴先輩は、真剣な声と優しい目で照美先輩に話しかける。
「……はいっ。分かりました」
照美先輩は、うなずいて千鶴先輩を見る。
「明日の中間発表、頑張ってね。忙しいのにありがとう」
千鶴先輩が最後、元気付けるように笑う。
そして、バイバイ〜と手を振って照美先輩を見送った。
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