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7 音楽クラス
演劇クラスの次は、廊下を挟んで反対側の音楽クラスへ。
既に、廊下から楽器の演奏音が聴こえる。わぁ、綺麗な音色……。
静かにドアを開けたら、椅子に座って演奏してるたくさんの生徒たち。
フルートや、小さいトランペット?みたいなのを吹いてる。
その前で、指揮をとっている颯天先輩が目に入った。
「あ、来た来た」
颯天先輩は、手の合図で演奏を終わらす。
そして、一番前でフルートを吹いていた男の先輩を呼んで私たちの所へ来た。
「こんにちは。音楽クラス、二年二組のクラス長の、響です」
そう挨拶をした、クラス長の響先輩。
響先輩は、颯天先輩と並ぶと、ちょっと小さい。
だけど大きな目とスッとした鼻筋が目立つ、颯天先輩に劣らない、すごくかっこいい人だ。
「颯天から聞いてたんだね。さっき、演劇にアポ無しで突撃したらめっちゃ驚かれたからさぁ。ありがとね」
「会長のことだから、多分アポ入れてないだろうなって思ってましたよ」
颯天先輩は、笑って千鶴先輩と会話する。
私は、話を聞きながら「颯天先輩、すごいね」って柚花ちゃんに話しかけた。
「…………」
「ゆ、柚花ちゃん?」
返事が返ってこないから心配になって彼女を覗き込むと、柚花ちゃんは教室でお話ししてる生徒さんたちをじっっと凝視している。
奥では、トランペットやバイオリンで調律してる先輩もいて、たまにバイオリンの音がきこえる。
そして、柚花ちゃんは多分そっちを見てる。
眼鏡の奥の瞳がキラキラ輝きすぎて、私は目を瞬いた。
「……あっ、そっか。柚花ちゃん、音楽やってるから」
たしかバイオリンだっけ。そのバイオリンを弾いてる先輩が、間近にいるんだよね。
そりゃあ、上の空になるよな……。
柚花ちゃんは、憧れの音楽クラスを視覚と聴覚で満喫してるところだ。
これは、そっとしておこう……。
私は千鶴先輩たちに向き直る。柚花ちゃんの分も、ちゃんと聞かなくちゃっ。
「音楽クラスも出場する気だよねぇ。当たり前だよね」
「はい。音楽クラスは、クラスを半分に分けて、明日の中間発表は出て、芸術発表会も出るつもりでした」
「クラスが40人いるから、明日は20名の二編成で発表するんですけど……。そもそも大会は二団体は無理なんですよね。じゃあパートをまとめて40人で一団体?会長、人数的にどうです?」
颯天先輩が、チラッと千鶴先輩を見た。
その視線を受けて、千鶴先輩は難しい顔。
「ああ……。だいぶ人数増えたね。たしか去年は30人編成だったっけ」
それを聞いて、私はびっくりする。
千鶴先輩、去年の音楽クラスの人数まで覚えてるの?
「そうです。それでも、歴代最高人数だったらしいですね」
響先輩が、うなずいた。
「うーん。だから、もし音楽クラスが出場になったらその半分の人数だけ出場……とかになっちゃうかも」
千鶴先輩の言葉に、響先輩は「えっ」と声をもらす。
「……10人?最低、主要のトランペットだけでも四人必要で、他のパートも最低三人ずつ必要なのに……。どうにか、ならないですか……?」
響先輩は、か細い声で千鶴先輩を見る。隣の颯天先輩も、千鶴先輩の反応をうかがってるみたい。
「…………生徒会が、なんとかするから」
千鶴先輩が、強くうなずく。それを見て、響先輩は少し安心したみたい。千鶴先輩を見て、「お願いします」と頭を下げた。
…………なんとかできる保証なんて、まだ何もない。解決の糸口を探してる状態なのに、生徒を安心させるために「なんとかする」とハッキリ言える、千鶴先輩がすごい。カッコいい。
……全部、全力で向き合おうとしてるから、自然とこういうことが言えるんだろうな。本当にカッコいい。
「カッコいい…………。あの音程、すごく綺麗…………」
隣で、一人夢の世界へ飛び立ってる柚花ちゃんも、感嘆の声をもらしてる。
顔が完全にうっとりしちゃってるし、眼鏡の奥の瞳もかつてないほど輝いてる。
「柚花ちゃーん。そろそろ戻っておいで〜」
肩をポンポンたたくと、柚花ちゃんはハッと目の焦点を私に向けた。
「今、何してた?」
「聞き込み調査」
「今から?」
「ううん。多分終わった」
千鶴先輩たちを見ると、もう話は終わったみたいで、普通にお話ししてる。
「…………バイオリンの先輩、めちゃくちゃ上手でカッコよかった」
柚花ちゃんは最後音楽クラスの総評をして、満足そうに笑顔でうなずいた。
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