8 美術クラス

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8 美術クラス

音楽クラスから出た私たちは、下の階へと歩く。 どのクラスも教室でやってたけど、美術クラスは、一階の美術室で活動してるらしい。 昨日、香恋先輩がそう言ってたんだよね。 教室のある階から一階下がっただけなのに、賑やかだった空気が一転して静かになる。 「……どのクラスも、熱気がすごいですね」 私は、隣を歩いてる千鶴先輩に話しかけた。 「そりゃあ、中ニの芸術発表会は、桃中生の青春だもんね」 千鶴先輩は去年のことを思い出したのか、懐かしそうに笑ってる。 ……桃中生の青春。 そんな大会なら、どのクラスも絶対に出たいよね。 なんとか、どのクラスも喧嘩になることなく参加できるような方法はないのかな……。 「あっ!千鶴先輩〜〜!」 美術室のドアを開けた千鶴先輩。 そしたら、中から鉛筆を手に持ったまま香恋先輩が出てきた。 「香恋!頑張ってる?」 「はいっ。私の作品、あとちょこっと塗り直せば、完成します!」 うふふと笑った香恋先輩。 なんか今の香恋先輩、美術室の背景がすごく似合うなぁ。 ちょこっと美術室の中を覗いてみたら、色んな絵や大きな模造紙がたくさん壁に掛かってたり、端っこの棚には工作らしきものが置いてあるのも見える。 まだ美術の時間で美術室を使ったことはないけど、わたしもいつかここを使うんだろうなぁって思うと、ワクワクしちゃうよ! と、香恋先輩の後ろから、一人の先輩が顔を覗かせていた。 「あなたが、美術クラスのクラス長さん?」 千鶴先輩がその人に気付いて声をかけた途端、その先輩はビクッと肩を跳ね上げた。 「あ、はい……。二年三組のクラス長、絵麻です……」 クラス長の絵麻(えま)先輩は、聞き取れるギリギリの声を発した。 低いポニーテールで、重めの前髪。白い肌の、静かそうな先輩だ。 「絵麻っち、もっと大きな声で喋りなよ〜」 香恋先輩が、絵麻先輩のひじをツンツンつつく。 「だ、だって、生徒会長さん、緊張する……」 「千鶴先輩、すっごい優しいから大丈夫だって!」 香恋先輩が絵麻先輩をグイグイ前に押し出す。 絵麻先輩は、あわあわと千鶴先輩の前に立った。 「絵麻ちゃん、お仕事中なのにごめんね。すぐ終わらせるから大丈夫だよ」 千鶴先輩は、にっこりと優しく笑う。そして、そのまま質問を始めた。 「まず、芸術発表会のことについて聞いていい?」 千鶴先輩の言葉で、私たちはメモの準備。 「出場団体が、今年から一団体になったのは知ってる?」 「は、はい。クラスの子が騒いでたので、知ってます……」 コクコクとうなずいた、絵麻先輩。 「じゃあ、もちろん美術クラスも全員出たいよね?」 「あ……聞いてみないと分かりませんが、たぶん……」 絵麻先輩の小さな声に、わたしは柚花ちゃんと顔を見合わせる。 「「「出たいよ!!」」」 だけど、静かだった美術室の中から大きな声がいくつも飛んできた。 「…………ひぇっ。だ、だそうです」 絵麻先輩は首をうつむけて、ぼそっとつぶやく。 香恋先輩は、「もー。絵麻っちはいつも消極的なんだから」と首をすくめた。 「絵麻っちはね、こんなオドオドキャラだけど、去年は学園祭の表紙の絵を描いたり、デザイン検定で一級持ってるんだよ!ほんとーに、すごい子なんだから」 香恋先輩は、絵麻先輩の頭をなでて、ぎゅうっとくっつく。 抱きつかれた絵麻先輩は、驚きながらも嬉しそうに笑った。 わあ、仲良しだなぁ。二人に光景を微笑ましく見ていた私。 「りょーかい。じゃあ、美術クラスも出場意向ね」 ちゃんと質問に意図を覚えていた、千鶴先輩が目で私たちに合図する。 私たちはうなずいて、紙にメモ。 「絵麻ちゃん。あなた、クラス長に任されたってことは、クラスから信頼されてるってことだよ。もっと自信持ちな」 千鶴先輩は、絵麻先輩の肩をバシッと勢いよくたたいて笑った。 「…………は、はいっ!」 そしたら、絵麻先輩は目を見開いて千鶴先輩のことを見上げ、小さく、だけど明るく笑った。
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