起「出会いという名の王道ボーイミーツガール」

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起「出会いという名の王道ボーイミーツガール」

 物語の始まりは、誰かと出会う所から始まるのが鉄板でこの物語もまた出会いから始まる。  それが良いのか悪いのかは分からいけれど、王道ってのはいつだって誰かに求められるものである。 「きゃあああああ!!!」  物語の始まりを彩る女性の悲鳴というやつは、どうしてこんなにも綺麗に通った声で始まるものなのか。  いくら見目麗しい女性だったとしても、命の危機に張り上げる声ならばもっと声が割れて潰れて拉げていてもいいと思わない?  書かれた小説を読む度にそんな事を思った。 「だ、誰か助けて!!!」  少なくとも、綺麗な叫び声をあげられるくらいの意識があるのであれば、まだ余裕があるのじゃないだろうか。  果てまた危機感が足りないんじゃないか、そんな事を考えずにいられない。 「誰か!!!」  助けを呼び続けているのは少女だった。  深いどこまで続くか分からない森の中、崖の直ぐ側を走っている。  二段続く崖の上も森で、声はきっと崖の上にある小道の更に上の森の中までしっかり響いていることだろう。  追っているのは口から涎を滴らせた黒い犬だった。  口元が避け、目が複数ギョロついている。  ダライララって呼ばれる奇形の動物だ。  少女が木の実をいっぱいに抱えて走るその上、小道をドドドドというエンジン音を響かせて二輪の移動車両で走るのはライダースーツ……はこの辺りじゃ一般的じゃない名称か。  革製の黒いジャケットを着た美少年……・ 「誰か助けてって言ってるじゃない!!!」 「え、何聞こえなーい」 「助けて!!!」  少女がこちらを見て、必死に何か叫んでいる。  何言っているかは大体口元の動きで分かるから保管しているけれど、それにしてもすごい余裕だな。  大人でもダライラライヌに追われたら、瞬く間に追いつかれて食らい尽くされるのに頭に巻いた包帯で左目を覆った状態でよくここまで走って来れたよね。 「誰かに助けて貰えば、さっき誰か助けてって言ってたんじゃん。 全く、こういうのってはっきり言って欲しいよね。 誰に言ってるのか分からないと、こっちだって判断しづらいんだよね。 ほら、だって助けた後で頼んだ訳じゃないとか言われてもこっちは知らないわけで」  だって、ずうっとエンジンを響かせて崖の上から並走してるのに「誰か」「誰か」って責任逃れも甚だしいよね。  こういうのって、助けて貰った後でお礼を要求したら助けてくれたのはこちらの善意だとか言い出すための言い訳づくりだよね。  やだやだ、素直に助けを求められない人って。 「何グダグダ言ってるの!!! 助けてよ!!!」  あ、聞こえるんだ。  耳いいなあ、エンジン音にかき消されて聞こえないかと思ったのに。  まあ、あれだよね。 「救出料、1000ルビア頂きます」 「何言ってるの!!!」  ほら、やっぱり余裕あるじゃない。  都合の悪いことは聞こえないふりするんだから。 「お願い、この籠いっぱいの木苺あげるから!!!」  あ、それはまずい。
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