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「課長、向こうへ行かれても、お元気で。これは、私からのお餞別です」
「私からも。受け取ってください」
女性社員の一人が進み出て、プレゼントを渡したのを皮切りに、次から次へと贈り物が手渡されて、あっという間に課長の両腕がいっぱいになっていく。
本当は、私もせめてもの今までのお礼にと、ささやかなプレゼントと、お世話になった感謝に密かな気持ちを書き添えた手紙を、思い切って送るつもりだったのだけれど、こんなにも周りからもてはやされているところを目の当たりに見せられては、到底渡せそうにもなかった……。
持ち切れないほどのプレゼントを、紙袋に入れて、「ありがとう、みんな」と、相馬課長が笑みを浮かべる。
たまらない寂寥感に、そんな顔で笑わないでほしいと感じる。
『おまえの頑張りを、俺は評価している。だから、大丈夫だ』
以前、初めてのクライアントとの対峙で緊張する私に、向けられた柔らかな笑顔が、力強い後押しの声と重なって蘇る。
(でももう声を聞くことさえも、できなくなってしまうなんて……)
手紙……最後にと思ってやっと書き上げたのに……。けれどお祝いムード一色の中では、課長への切ないまでの思いは伝えられないまま、宙にぽっかりと浮いてしまった気がした。
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