春咲きの恋は、桜色に染まり

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その柔らかな笑みが、もしも私だけに向けられたものであったならと思うと、胸が締めつけられるようだった。 立ち上がった皆の拍手に見送られつつ、相馬課長が少し照れながら会社を出て行く。 (課長には、もう二度と、会えなくなるかもしれないのに……)そう思っても、所在なくポツンと立ちすくむ私の足は、その場に縫い留められたかのように一歩も動かなかった。 顔を下に向けうつむいていると、相馬課長がふと私の前で立ち止まった気配がした。 「……春野、おまえも元気でやれよ?」 ふいに声をかけられ、耳が仄かに赤く染まるのを感じながら、顔を上げ「……はい」と小さく頷いた。 すると相馬課長が、花束で一瞬、横顔を覆い隠して、 「……後で、会社の通用口に来てくれないか」 私の赤くなった耳のすぐそばで、声をひそめてそう耳打ちをした──。
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