春咲きの恋は、桜色に染まり

6/11

207人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
カバンを肩に掛けると、会社の正面玄関から出て行く皆とは反対方向へ歩いて、ビルの裏手にある通用口に回った。 人通りの多い正面玄関口とは違い、裏通りにも当たる通用口の方には歩く人さえもまばらだった。 相馬課長の姿を探すと、壁にもたれて煙草をくゆらせていて、遠巻きにしばらく佇んで、シルバーグレーのスーツを纏ったその立ち姿を見つめていると、 「……あ、来たのか? 春野」 課長が気づいて、顔をこちらに向けた。 そうして吸っていた煙草を唇から離すと、傍らのスタンド灰皿に吸い殻を押し込んで、 「こっちにちょっと来い」 と、手招きをした。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

207人が本棚に入れています
本棚に追加