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カバンを肩に掛けると、会社の正面玄関から出て行く皆とは反対方向へ歩いて、ビルの裏手にある通用口に回った。
人通りの多い正面玄関口とは違い、裏通りにも当たる通用口の方には歩く人さえもまばらだった。
相馬課長の姿を探すと、壁にもたれて煙草をくゆらせていて、遠巻きにしばらく佇んで、シルバーグレーのスーツを纏ったその立ち姿を見つめていると、
「……あ、来たのか? 春野」
課長が気づいて、顔をこちらに向けた。
そうして吸っていた煙草を唇から離すと、傍らのスタンド灰皿に吸い殻を押し込んで、
「こっちにちょっと来い」
と、手招きをした。
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