ぼくの足は宇宙人

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 家に帰ると、家の電話に留守電が大量にかかっていた。スマホにもかかっていたようだ。全く気づかなかった。  宇宙人は車椅子を押しながら、自分の星の話をたくさんしてくれた。ぼくはその話に夢中で、スマホを見ていなかったのだ。  着信先を見ると親と病院からだった。要件は察した。ぼくはかけ直しをしないことにした。  「何か食べる?」  「いいのカ?」  「何か食べたいものはあるの?」  「ここは地球の日本だロ。寿司を食べてみたイ。」  また出かけるのも宇宙人の負担になるだろうと思い、出前を取ることにした。  宇宙人との話を楽しんでいると、家のベルが鳴った。ぼくは宇宙人に万札を渡した。これで足りるだろう。宇宙人はコートを羽織って玄関に出た。  「こちら注文の品でございます。代金五千円でございます。」  「これでお願いしまス。」  「お受けいたします。お釣り五千円ですね。どうぞ。では。」  配達員は戸を閉めた。  宇宙人は初めての出前取りに満足していた。  「早速食べよウ」  一人暮らしになってから寿司なんて食べていなかった。贅沢だ。  宇宙人はぼくをじっと見つめていた。  「いただきますハ?言わないのカ?」  「あー。いただきます。」  「いただきまス」  言いたかったのかな。まあいいや。寿司に集中しよう。  「うまイ!これは魚だナ!だが泳いでいなイ。泳いでいる姿を見たいナ。」  「食べ終わったら水族館行く?たくさんの魚が泳いでるよ。」  「いいのカ?行ってみたイ!」  「いいよ。行こう。」  正直一人暮らしに応える出費だが、事故に遭ったのだ。お金で心を癒そう。  「ご馳走様。」  「ごちそうさマ。」  寿司を食べ終わって、水族館に向かう。  車椅子を押しながら、水族館を目指す。正直電車やバスに乗る勇気はなかった。  「結構遠いけど疲れたら言ってね。」  「我々は地球人より遥かに体力があル。これぐらい余裕ダ。」  赤信号で止まる。交通事故に遭ったのに、特にトラウマはなかった。宇宙人がいてくれるからかな。    二時間くらいで水族館に着いた。  「大丈夫?疲れてない?」  「だから余裕だと言っているだロ!」  後半から明らかに口数が減っていたのに。宇宙人は見栄っ張りだな。  中に入ると無数の魚たちが出迎えてくれた。  「魚はいいな。人間みたいに差別がなくて。」  自分でもなぜこんなことを言ったんだろう。魚の自由に泳いでいる姿に、自然と感化されたのかもしれない。  「いヤ、他の生物はこの魚たちの空間にいなイ。この魚も違う種類の魚を入れていないかラ、結局差別しているんじゃないカ。」  「それは違うよ。この魚の空間を作ってるのは人間だ。人間が差別のない空間を提供しているんだ。」  「じゃあ人間は差別する生き物なのカ。」  「そうなるね。」  これは地球を滅ぼしかねないな。  魚で差別ね。あっ、  「スイミーって作品があってね。主人公のスイミーは一匹だけ黒い魚なんだ。でもクライマックスだと、その特徴を活かして、大きい魚を赤い魚と協力して倒すんだ。」  「スイミーを赤い魚は受け入れたのカ。魚は差別のない優しい生物だと捉えよウ。」  「魚でもできることをなんで人間はできないのかな。」  「魚でもって言葉は差別だゾ。」  笑ってしまった。些細なことで差別に繋がってしまう。ぼくも発言に気をつけよう。  他の魚が水槽に入ると、元々いた魚にも、入ってきた魚にもストレスが生じるからとは言わなかった。生きていく上での差別も必要なのだ。  ぼくたちは一通り魚を見終わり、水族館を出た。  「休憩する?」  「何度も言わせるナ。人間の体力に合わせる必要はなイ。」  ぼくはまた車椅子を押してもらう。  赤信号で止まる。  「今日は色々とありがとウ。」  「こっちこそ午前中は大学に付き合ってもらってありがとね。今のところ地球はどうする気?」  「迷いどころダ。人間は滅ぼしたいガ、魚のような平和な生き物は消えてほしくなイ。」  「そっか。」  青信号になった。  宇宙人は車椅子を優しく押しだす。  キキィーーーーーーー。ドーーーーーーン。    ぼくは吹っ飛ばされた。またか。でも今回はやばいかもしれないな。声が出ない。  ……宇宙人!宇宙人は大丈夫か!  ぼくの微かな視界で宇宙人を探す。宇宙人は立っていた。  宇宙人はぼくたちを轢いた運転手の胸ぐらを掴んでいる。  宇宙人の帽子は道路に放り投げられていた。  「どこ見て運転してんダ!死んだらどうすル!」  「ごめんなさい!ごめんなさい!」  運転手を投げ捨て、ぼくのところに来た。  「おい人間!大丈夫カ!こういう時どうすればいイ?教えてくレ!」  救急車を呼んでくれ。ダメだ、声が出ない。足が痛い。  「おいそこの人間!どうすればいイ!助けてくレ!」  宇宙人は周りの無数にいる傍観者に助けを求めていた。だが、誰も来なかった。  「おイ!携帯をこちらに向けるナ!」  カシャッ。カシャッ。  シャッター音が鳴っている。確かに交通事故に遭った宇宙人は撮れ高ありまくりだろう。  「早く助けてくレ!」  宇宙人は焦って自分のネックレスを見る。宇宙人との間にある言語の壁をなくすネックレスは壊れていなかった。人間の言葉が届いているはずだ。  「俺の言葉が聞こえてるだロ!なんで動かない!助けてくれヨ!」  スーツの男がこの光景を見て走ってきた。  「大丈夫ですか!今連絡します!」  スーツを着た男が駆け寄り連絡をしてくれた。  ああもう限界。視界が暗くなる。
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