3人が本棚に入れています
本棚に追加
目が覚めるとまた白色で覆われていた。窓からは夜の月明かりが差し込んでいた。
また助かったのか。一週間も経たずにまた事故に遭うとは。運が悪いな。
近くの景色が歪む。そして灰色になっていく。
「透明になっていたのか。」
「あア」
宇宙人だった。一緒に事故に遭ったのに宇宙人は無傷だった。やっぱり体力は人間とは比べ物にならないのかな。
「お前は車に轢かれたんダ。優しい人間がお前をここまで連れてきてくれタ。」
記憶ははっきりある。宇宙人は助けを求めたが、周りはスマホで撮影しているだけで一向に来なかった。
見られたくない地球の汚点を見せてしまった。
「宇宙人でも守れる交通ルールを守れない人間がいるとはナ。」
「宇宙人でもは差別なんだろ」
「すまなイ。」
「地球は見定めたのか?」
人間のこんな醜態を見せたんだ。どうせ滅ぼすんだろ。
「……嘘をついタ。」
「え?」
「俺には元々滅ぼす力なんてなイ。」
ぼくは絶句してしまった。
「俺の惑星だと俺はそんなに偉くなイ」
「じゃあただぼくと地球を探検しただけ?」
「そうダ。」
ここで一つの疑問が生まれた。
「なんでぼくなの?」
宇宙人はしばらく沈黙した後、口を開いた。
「お前を最初に轢いた運転手ハ、運転中俺のUFOを見たんダ。そしてスマホで撮影しようとしタ。そして前にいたお前に気が付かなかったんダ。」
UFOを見たら撮影したい気持ちは分かる。だが運転中はその欲を抑えないと。
「事故に遭ったお前に申し訳ない気持ちがあっタ。だからお前に近付いたんダ。もともと人間を見定めようとは思っていなかっタ。」
興味が湧いたと言っていたが、実際は申し訳なかったからだった。少し残念に感じた。
「でも人間を見て思っタ。人間は滅んだ方がいい人種ダ。俺が偉くなったら真っ先に滅ぼしに行ク。」
宇宙人の住む惑星より地球の方が酷い環境なのか。
「いつか地球を滅ぼす時、お前と魚、優しい男以外は滅ぼス。その時にお前は我々の星に来イ。今度は我々の星を案内すル。車椅子も押すゾ。」
宇宙人にこんなに受け入れられて嬉しかった。泣きそうだった。でも。
「ダメだよ。水族館の魚と一緒だ。違う星のぼくは行ったらダメなんだよ。人間は人間の星から出たらダメなんだ。」
「我々は差別などしなイ。」
気持ちは嬉しかった。本当は行きたかった。でもダメなんだよ。だって。
「宇宙人はただでさえこの地球にストレスを感じてるじゃないか。人間にストレスを感じてるじゃないか!ぼくなんかは行ったらダメなんだよ!ストレスの元凶になる。」
宇宙人は黙ってしまった。ぼくも黙った。
ぼくは人間だ。違う星に行ったらスマホで撮影するし、差別だってしてしまう。これでいいんだ。
「……最後に頼みがあル。スイミーを星に持ち帰りたイ。」
宇宙人は自分の星に帰るつもりだ。地球を滅ぼすために。
ぼくは宇宙人の補助で車椅子に乗った。
優しく押してくれる。
ぼくたちは幼児の入院棟に向かった。
幼児の入院棟には絵本コーナーがあった。そこにはスイミーもあった。あって良かった。
「ありがとウ」
「大事にしてね」
自分の病室に戻ったら、カラフルなUFOが停車していた。
「さようなら」
「さようなラ」
UFOは発信した。空高く去っていった。
宇宙人が攻めに来るまで死ねないな。
ぼくは病室で静かに泣いた。
最初のコメントを投稿しよう!