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宇宙へ飛び立つために、俺は宇宙平和維持軍の一員として真剣に計画表と睨めっこをしながら作業を進めていた。
ある日、俺の隣の部署の奴が突然仕事を放棄し消えた。というより、消された。
超・厳格な司令塔進捗管理部の下に各部署が置かれていて、作業遅延が著しい者は速やかに営倉に投獄されてしまうのだ。
消えた奴の後釜は時間を置かずに配置され、何事もなかったように作業は続けられる。
日を追うごとに作業員は爆発的に増員されて、司令塔系、伝達系、動力系、入出力系、船体設備構造系などの構築作業が昼夜を問わず継続され、各系を構成する複数のセクションに有するサブシステムは次々に完成してゆく。
着工から15日ほど経過すると部分的に動作確認に入る。
そう言った情報が細かく伝達系システムを用いて俺の所にも流されるので焦る。
いよいよ出港という予定時刻の6時間前になって、脚部の運動機能を決定するシステムに致命傷が発見された。俺の担当する脚部関節ソフトのプログラミングミスが原因だった。司令塔頭脳部から即刻管理部隊長らが来て復旧を3時間以内と厳命された。それまでに復旧しないと営倉行きだ! やばっ、と思った俺は、心血を注いで復旧作業に集中する。
その作業を夢中でやっていると、隣の部署からうわーっ、ぎゃーっと悲鳴が聞こえた。次の瞬間、管理部隊長が俺の部署へ飛び込んできた。
「おい、お前ら!隣の部署にバクテリアが侵入した! 生物兵器かもしれん、防毒マスクをつけて応援に来い!」
俺はマスクと滅菌銃を渡され、否応なしにバクテリア撃退チームに参加させられた。
現場へ行くと、敵はダチョウのたまごサイズの黒い不定形の生物で、そこら中にうようよぷかぷか漂っていて、手当たり次第に何でもかんでも体内に取り込み消化してしまう生物らしい。天井や壁、床に穴が空けられている。俺は作業の事も頭を過ったが、兎に角こいつらを撃退しない限り生き残る道は無いと思い銃を撃ちまくった。それから激しい戦いが2時間余りも続く。銃の効果は絶大で命中すれば敵は消え失せるが、味方も敵に頭から飲み込まれる奴や腕や足に絡みつかれ自分で自身の腕を撃ってしまい自滅した奴、誤射され倒れる奴等々数え切れない、怒号と悲鳴が入り混じり惨憺たる光景が目前に広がってゆく。それでも徐々に優勢を形作り、そして辛うじて壊滅させることができたのだ。
損傷を受けた船体の修復だけでも相当時間がかかりそうだ。
「何隻もの宇宙船が出港する軍事上の都合で出港時刻の変更は出来ない!」管理部隊長の怒鳴り声が響き渡る。
俺は本来業務に戻ったがもう出発まで3時間しかない。既に多くのセクションでは試運転が始められているようだ。管理部隊からは期限厳守! 全力でかかれ! と尻を叩かれ、必死に脚部システムのメンテナンスを続ける。焦るな! 落ち着いてやれば間に合う、大丈夫だ自分を信じろ! そう自分に言い聞かせながら、汗を拭う間も惜しみ、指先の皮を擦りむきながら、時間と戦う。
出港10分前、漸くシステムがアップする。
5分前、試運転を開始、2分間の連続運転をなんとかクリアする。
30秒前、俺の作業が完了すると同時に本番運行が開始される。
一拍の間もなく司令塔頭脳部からカウントダウンを告げる声が緊張感を醸し出し、俺は両手を合わせ無事を祈る。
5、4、3、2、1、0、発進っ!
*
「ままぁ、殻にヒビ入ってきたぁ!」
「あらぁ、嘴見えてきたわよ」
「わぁ、可愛いい」
ピヨピヨピヨピヨ……
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