煮え切らない人

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煮え切らない人

私の出向先は、 いわゆる“秘書”だった。 実際のところは、 お茶くみと電話番だったが。 私の行ったところは、 “ボス”がふたりいて(それぞれ個室)、 それぞれに男性社員(係長)と女子社員がひとりづつついていた。 “ボスの個室”の間に4人の秘書がいる小さい“秘書室”がある、 みたいな部屋だった。 “ボス”がいる日は、 途切れなくお客様が来て、 お茶出し、 茶碗洗いにてんてこ舞いになる。 間に湯を沸かしたり、 電話も取らなければならない。 そうかと思えば、 1日する事がなくお茶を飲みながら読書に耽る(ふける)日もあった。 そこに行ってから、 澤山さんからの“告白”があり、 お見合の“お断り”もしたわけだ。 私にとっては、 結構精神的にしんどい時期だったことになる。 同じ建屋にいるので、 (ひょっとして会ってしまうかも、 そしたら気まずいな) と思ったが、 幸いそういうことはなかった。 ただ、 会社関係の方の葬儀があって、 受付にかり出された時、 何ヶ月ぶりかで、チラッと澤山さんの姿を見た。 私に気が付いたかどうかは分からない。 気が付いたけど見なかった振りをしたようにも見えた。 ちょっとだけ心がチクッとした。 後悔がなかったとは言えない。 いや、ほんとうは物凄く後悔してた。 でも、 今更自分から声をかける勇気などなかった。 改めて思った。私の、バカ! ところで… 私は、一応「秘書課」の所属になっていたのだが、 秘書課は若い人が多く、 そのせいか活気があるというか、 華やかだった。 女子社員が比較的多かったせいもあるのかもしれない。 若い人が多いので、 課の中でもカップルがいるらしかった。 私のいる秘書室は、普段は4人で、 “ボス”と係長が出掛けてしまうと、 もう1人の女子社員とふたりきりになってしまう。 それでも、 時々用事で秘書課の人が来たり、 こちらから秘書課に出向くこともあって、 秘書課の中でも、少しづつ知っている顔、 名前の分かる人も増えていった。 その中に、背が高い、 多分私より5歳ぐらい上の男性がいた。 感じのいい人で、 知らない人ばかりのところにひとりで出向で来た私に、 親切にしてくれた。 顔を合わせることはたまにしかなかったが、いい人だなと思った。 ある時、課の親睦行事があり、 その彼と同じグループになった。 あいにく私はその日風邪気味だったのか、 途中からちょっと熱っぽいような感じがして、具合が悪くなってしまった。 それで、 みんなが遊んでるところから少し離れた処で休んでいたのだが「大丈夫?」と気にしてくれて、側に居てくれた。 それから、少し親しくなって、 秘書課に行った時や廊下で会うと立ち話したりするようになった。 恋の予感がしていた…。 「お付き合いして下さい。」 そう、 自分から勇気を出せば 良かったのかもしれない。 でも、私にはできなかった。 職場で時々出くわすと、 なんとなくそんな雰囲気には、なる。 でも、 彼は、何も言わない。 言いそうな感じもするのに、 何も言わなかった。 私は、待つことに、 彼の煮え切らない態度に疲れてしまった。 自分だって勇気を出せないくせに…。 彼のせいにするようで卑怯だけど、 勝手に“〇〇日までに告白がなかったら、 諦める”と決めてしまった。 そして、その日が来てしまった。 (もう、自分で相手を見つけるのは無理。)と、 結婚相談所に入会手続きをした。 伯父には 「もう、迷惑かけたのでお見合は、 いいです。」と断った。 もう、 ドラマや漫画のような 「好きです」とか 「愛してる」 なんて言う夢の世界は、 私には無縁なんだと諦めた。 そういう、 恋の駆け引きみたいのは、 向いてないんだ、 と思うことにした。 彼氏いない歴21年。21才。 青春は、終わったのかな。 いや、終わるも何も、 始まってもいなかった? もう、どっちでもいいや。 2歳上の兄は、 高校時代からの彼女と、 もう直ぐ結婚する。 私は小姑になるわけだ。 早く、相手を見つけて家を出ないと、完全にお邪魔虫だ。 大枚をはたいて入会した結婚相談所。 もう、 これにかけて、頑張るしかない… そう決心した。
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