危険な香りのする人

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危険な香りのする人

名にし負はばいざ言問はむ都鳥  わが思ふ人はありやなしやと (都という言葉を名前に持つのに値する鳥なのであれば、 さあ聞いてみよう、都鳥よ。 私の大切に思うあの人は、 元気でやっているのか、 そうでもないのか。 『古今和歌集』(巻九 羇旅歌411) 中学1年生の秋から冬ぐらいだったと思う。 二個上の中3の先輩に恋をした。 どこでどうその先輩を見つけたのか、 よく覚えていない。 同じクラスの浜中さんという女子がその人と親しくて、色々教えて貰った。 その人は、いつもギリギリの時間に登校するか、よく遅刻をしていた。 だから、その頃は朝8:30近くになると、 さりげなく校門の方を見たりしてた。 なんとなく大人びていて、 不良ともちがうのだが、 危険な香りがするひとだった。 (私には、珍しい。優等生タイプが好み。) 浜中さんにどうして私の気持ちがバレたのか、 それとも自分から言ったのか、 覚えていない。 いつも遅刻ギリギリなのは、 新聞配達をしているかららしかった。 家庭事情が複雑らしく、 学校に許可を貰って配達しているという。 浜中さんと親しいのは、 その辺にも理由があったのかもしれない。 彼女の家も母子家庭で、 途中で姓が変わったり、 色々あるらしかったから。 だから、なんとなく大人びていて、 私とは住む世界が違う感じがしたのは、 そのせいなんだろうと思った。 ぱっと見不良っぽいのだけれど、 頭はいいらしかった。 図書室でバッタリ行き会ったとき、 古典の全集の前で 「こんなのここに置いたって、 ここの奴ら(生徒)には、 どうせ読みこなせないのにな。」 と呟いていた。 どうやら、その先輩は “読みこなせる”らしかった。 だから、図書室で出逢ったのかもしれない。(図書委員だったのかも…) 読書家というほど読むわけではないが、 図書室は割とよく行く方だった。 その頃の愛読書は、 「あしながおじさん」 夢見る夢子ちゃんだったのだなと、 それだけでも分かる。 その先輩を見つけたのが秋から冬ぐらいだったから、 半年も経たないうちに卒業して行った。 浜中さんの話だと、 成績が良いのに進学しなかったようだ。 家庭の事情で。 だから、もう大人な感じがしたのかな。 その後は、一度も見かけたことはなかった。 私が中学を卒業した後、 浜中さんとその先輩が結婚したとかいう話を風の噂で聞いた。 真偽の程はわからないけど。 浜中さんとは、 クラスの中では比較的仲良くしていた方だが (卒業アルバムの作製委員を一緒にしたから…) 卒業後は、会ったことがない。 その噂を聞いたとき、 不思議と嫉妬心は起きなかった。 先輩が卒業してから2年以上経ってたのもあるし、 やっぱりそれ以上に、 私では叶うはずのない人だから…。 家庭に事情を抱えた者同士、 わかり合えるところがあったのかなと、 私には計り知れない感じに惹かれたのかなと思うと共に、 (まだ、あの辺に住んでいるのかな。家も近いと言っていたし…。 元気にしてるのかな…) なんて、考えた。
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