私の、バカ

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私の、バカ

20才を過ぎた頃、 伯父に見合いを進められた。 昭和の初期とか大正の昔じゃあるまいし、 早すぎない?同級生 (進学校だったので、 ほとんど進学してた。)はみんな、 まだ大学生だよ、と思った。 伯父は中学校の校長をしていて、 先生仲間の息子さんが、 教育実習生として、 伯父のいる中学に来たのだそうだ。 それで、気に入ったらしい。 「人柄もいいし、 子どもたちにも好かれていたから、 とにかく会ってみろ。」という。 余り気乗りはしなかったが、 「見合い」という堅苦し形じゃないなら、 ということで、会うことになった。 確かに好青年で、いい人だった。 でも、それだけ… “どうでもいい人”とまでは言わないけれど、 “いい人”と“好きな人”は、違うんだな、 と思った。 何が違うのかは、分からなかった。 でも、話していても盛り上がらないのだ。 つまり、楽しくない。 楽しくなくても、 落ちつくのなら“あり”だと思うのだが、 居心地が悪かった。 何故か分からないけど… 直ぐ断りたかったのだが、 「もう少し付き合ってみないと分からないだろう。 付き合っているうちに、 良さが分かる。」 と言われてしまうと断れなかった。 そうして何度か“デート”を重ねたのだが、 最初の感じから変わることはなかった。 それでも、伯父の進める人だし、 好きになれるよう頑張って(努力?)みたこともあった。 そうして、 なんとなくお付き合いが続いていたある日、澤山さんから電話がかかってきた。 その少し前、 私は、課に在籍のまま 他の部署に出向になっていた。 そして、 澤山さんも、 同じ建物の中だが、 部署が異動になっていた。 元の課に用事があって行っても、 もう、澤山さんがいないのは、淋しかった。 いつもの片思いで終わったな。 もう、会うこともないだろうし… そう思っていたのに、 電話が来た。 「前から想ってたけど、 年も離れてるし、 同じ課の中じゃまずいかなと思って今まで言えなかった。 今度部署も変わったし… 連絡したんだ。 付き合って欲しい…」 嬉しかった。 ずっと想ってた人から、 初めて告白された…。 でも、私は… 「スミマセン。私、お見合いして、 お付き合いしてる人がいて…」 それ以上言えなかった。 言えばいいのに。 「付き合っている人はいるんですけど、 好きなのはずっとあなたで、 だから、断るので待って下さい」と。 自分の頑なな性格が恨めしかった。 二股かけるとか、 乗り換えるとか、 絶対出来ない。 というか、嫌いだった。 何で、今なの? もう少し早く、見合いする前とか 断った後だったら良かったのに… 「そっか。付き合ってる人がいたんだね。 なんとなく、 僕のこと想ってくれてるのかなって、 気がしてたんだけど、 勘違いだったみたいだね。ゴメン。」 違うんです。勘違いじゃないの! でも、言えなかった。 「スミマセン。」電話を切った。 私の、バカ。 見合いした彼とは無理なのは、 気が付いていた。 終わりは、見えていたのに… 彼のお兄さんの勤め先が、 私の会社と近いので、 「一度一緒に食事を」と言われて、 私と彼とお兄さん、 3人で食事をしたことがあった。 彼のお兄さんとの会話は楽しかった。 “見合相手”じゃないという気安さもあったのかもしれないが、 普通に、楽しかった。 いつもふたりだけだから、 緊張して話が弾まないのかな、 と思っていたけれど、 どうもそうじゃなさそうだと。 そもそも、 話がかみ合ってないんじゃない?事に気づいた。 やっぱり、断ろう、もう少ししたら。と思った。 彼も(兄さんとは楽しそうに話すのに、自分とは違う)ことに焦りを感じたらしく… 逆に、事を急ぎ出した。 次の“デート”の時に、家に連れて行かれ、 次々家族が出て来て“挨拶”されてしまった。 ちょ、ちょっと、待った! このまま、 結納とか婚約に進もうとしてない? 私は、まだ全然その気がないというか、 頃合いを見て断るつもりだったのに… もう、頃合いを見ている場合じゃなかった。 伯父さん、ゴメン。 私は、彼を呼び出して、はっきり言った。 「伯父が進める方なので、もう少しお付き合いして判断するつもりでしたが、 先日のようにお話を先に進めるおつもりなのなら、 私は、まだそこまで考えられないので、 お付き合いはいったんこれで終わりにさせて下さい。」と。 こんなことになるのなら、 なんで澤山さんにOKしなかったのよ! 私の、バカ! 涙も出なかった…
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